平成14年度:
1.米国におけるウイメンズ・ヘルスの歴史的背景
米国における女性の健康を守る運動は、ジャーナリストのBarbara Seamanにより始まった。運動の主題は「患者の言い分を聞こうとしない医療」「不十分な薬品の安全確認」「医薬品・医療技術の過剰投与」であった。この運動は、約20年後the National Women's Health Networkの創設へと発展した。その頃には、全米で約2000の「women's self-help medical」プロジェクトが走っていた。しかし残念なことに、一方で、1977年米国食品医薬品局(Food and Drug Administration : FDA)は、1960年代のサリドマイド医療事故(妊婦のthalidomideを含む睡眠薬使用が、出生児の四肢に欠陥をもたらした)ならびに1970年代のDES医療事故(妊婦に投与されdiethylstibestrolにより、出生女子の膣ガンが誘発された)の悲劇を重く見、妊娠の可能性のある女性を薬の治験に加えることは好ましくないとのガイダンスを出し、以後、女性が薬の治験から除外される状態が十数年にわたって続いた。その結果、女性生殖器および乳腺の悪性腫瘍を除くと、多くの生理医学的研究における臨床トライアルが、対象から女性を除外し、男性のモデルとして計画され、その研究成果が、あたかも疾病病態が男性と相違しないかのごとく、女性にも何らの疑問もなく当てはめられてきた。
余りにも少ない女性の健康に関するデータに、疑問をもち、一石を投じたのは、PHS(the Public Health Service)のEdward N. Brandt医師である。彼は、「全ての年齢の女性において、女性に特有な病態についての生物医学研究が行なわれるべきである」と1985年の女性の健康に関する特別専門委員会で報告した。それを受け、NIH(National Institute of Health)は1986年、女性および少数民族・人種を調査研究の対象に含むことを義務づける通達を公布した。1990年には、NIHの中に、女性における疾病の予防、診断、治療の向上と、関連する基礎研究を支援する目的で、Office of Research on Women's Health-ORWHが開設され、1991年には、更年期女性のQOLを脅かす疾患の研究を目的として、the Women's Health Initiativeプロジェクトが立ち上げられた。この前向き疫学調査は約20万人の中高年女性の登録を得て、現在進行中である。
2005年に報告される予定の結果は、米国における中高年女性の健康実態ならびに食事、サプリメント、運動、ホルモン補充療法とガン、心血管疾患、痴呆等との関連を明らかにすることが予測される(2002年7月、WHIプロジェクトの一つであるホルモン補充療法(HRT)と心血管疾患の一次予防に関する研究が、一次予防効果がなく、脳卒中、肺塞栓、乳がんの発症率がHRTを施行した群で、偽薬群に比し高くなったとの理由で中止された)。その後も、FDAにおけるOffice on Women's Health(OWH)を始めとした政府機関による女性医療関連の部署や研究所の設立が相次ぎ、これらの主要機関は全て、研究のスポンサー、女性を医療研究の対象に含めるという産業界への呼びかけ、医療研究へ積極的に参加するようにという女性への呼びかけ、女性医療問題に対する認識の向上を目的とする啓発活動、女性医療問題に関する情報発信、政府立法機関などへの法規制の制定提案など、広範囲な活動を行っている。また、1996年以降、主要な医科大学に女性の医療に特化した臨床、教育、研究、一般啓蒙活動を行うことを目的としてNational Centers of Excellence in Women's Healthが設置された。その結果、女性医療に対する人々の認識が向上し、その分野の研究に、より多額の資金が投じられるようになり、米国における女性医療は、過去10年、なかでも過去5年で大きく進歩した。一般企業(製薬会社など)によるGender-specific MedicineやWomen's Health関連の研究活動も進んでいる。1999年FDAは、「New Drug Applications」により、薬剤治験における、gender/sex、age、raceに関する検討を義務付けた。
2.セックス差とジェンダー差の生物学を理解するための委員会報告
1999年11月米国国立科学アカデミーは、公共団体と民間企業からの要請に応じて、性差とその決定因子について現在分かっている生物学的知見の現状を評価し、考察するための委員会「Committee on Understanding the Biology of Sex and Gender Differences」を米国医学研究所(the Institute of Medicine : IOM)内に立ち上げた。委員会は生物学を細胞、発生、臓器、個体及び行動レベルで考察することを目指し、様々な科学分野(行動科学、細胞生物学、臨床学、発達心理学、発達・生殖生物学、疫学、遺伝学、健康科学政策、免疫学、分子生物学、神経科学、病理学、薬理学、生理学、女性医学、動物学など)の専門家が委員に指名され、各学界からの意見聴取ならびに米国国立衛生研究所(National Institute of Health : NIH)からの報告書「Agenda for Research on Women's Health for the 21st Century」の徹底した検証を行った。委員会は男女間の病気や健康の差異に生物学的性差がいかに関連するか?性差がライフステージによっていかに変化するか、性と人間の健康の関連についての理解を深めるためにはどのような領域の追加研究が必要かなどを検討し、2001年に報告をまとめ、以下の14の提言を行った。
提言1:細胞レベルにおける性の研究を促進すべきである。
提言2:子宮から墓場までの性差を研究すべきである。
提言3:異なる種の情報を探求すべきである。
提言4:自然の変異を探求すべきである。
提言5:脳の構造と機能における性差の研究を発展させるべきである。
提言6:両性が罹患するヒトの全疾患について、性による差異および類似点をモニターすべきである。
提言7:セックスとジェンダーという言葉の明確な使い分けをすべきである。
提言8:性差に関する追加研究を支援し、実行すべきである。
提言9:性特異的データをより簡単に入手できるようにすべきである。
提言10:生物学研究材料が由来するもともとの個体における性を決定し、開示すべきである。
提言11:縦断的研究は、研究結果の性による解析が可能であるように実行され、構成されるべきである。
提言12:研究対象の内分泌状態を同定すべきである(データ解析において、可能な限り考慮されるべき重要な変数である)
提言13:性差における学際的研究を奨励し、支援すべきである。
提言14:同定済みの性差をもとに、差別が行われる危険性を減らすべきである。
NIHからのアジェンダならびにIOMからの提言は、米国における医学研究・教育の現場に大きくジェンダーの視点を導入させることになった。研究テーマの設定、研究の進め方、結果の解析と考察の段階で、また、教育カリキュラムの決定時にジェンダーの視点を取り入れる努力がなされ、その結果、現場での「性差を考慮した医療」が大きく前進している。
3.米国における女性医療の研究分野
米国における女性医療の研究分野は多岐に渡る。女性生殖器、乳腺の疾患はもちろんのこと、疾患における男女比が圧倒的に女性に傾いている病態、発症率はほぼ同等でも、男女間で臨床的に差をみるもの、いまだ生理的、生物学的解明が女性で遅れている病態、社会的な女性の地位と健康の関連などが重要課題となっている。臨床研究結果の性差に基づいた解析も、疾病の進展、治療法、予防措置の効果における性の関与をよりよく理解するためには当然の手法となりつつあり、男女で同じように治療を受けた場合でも、明らかに異なった結果が生じることを示している。
4.ハーバード大学ならびにカリフォルニア大学ロスアンジェルス校のとりくみ
A. National Centers of Excellence in Women's Health(CoEs):1996年、米国社会保健福祉省(the Department of Health and Human Services)は、女性の健康に寄与する新しいモデルとして、下記に記す6ケ所のNational Centers of Excellence in Women's Health(CoEs)の立ち上げを発表した。
Allegheny University of the Health Sciences, Philadelphia
Magee-Womens Hospital, Pittsburgh, Pennsylvania.
Ohio State University Medical Center, Columbus, Ohio
University of California at San Francisco, San Francisco, California
University of Pennsylvania, Pennsylvania, Philadelphia
Yale University, New Haven, Connecticut
これらのCoEsに対しては、One-stop shopping model型の女性医療の提供、女性の健康に関する研究、研究結果の医学教育ひいては日常診療・予防教育への組み込み、一般啓蒙教育、女性の医療に携わる専門家の育成とキャリアの強化、地域におけるヘルスケアサービスの有効な連携システムの構築などが期待される成果である。
さらに、1997年新たに下記の6施設がCoEsとして認定された。
Boston University Medical Campus, Boston, Massachusetts
Indiana University Medical Center, Indianapolis, Indiana
University of California at Los Angels, Los Angels, California
University of Maryland at Baltimore, Baltimore, Maryland
University of Michigan Medical Center, Ann Arbor, Michigan
Wake Forest University/Bowman Gray School of Medicine in Winston-salem, North Carolina
また、この年には、大学ならびに研究分野における女性医療者・研究者の育成と雇用を確かなものにするための“Women in Academic Medicine Leadership Plan”と、経済界、消費者、科学系企業、行政等とCoEsとの提携を目指したネットワークの構築” が立ち上げられた。また、各々のCoEsにおけるプロジェクトの成果と効果を外部評価するための“An evaluation plan to assess project outcomes and effectiveness”が登場した。
1998年あらたに下記の6施設がCoEsとして認定された。
Harvard University, Boston, Massachusetts
Tulane/Xavier Universities of Lousiana, New Orleans, Lousiana
University of Illinois at Chicago, Chicago, Illinois
University of Puerto Rico in San Juan, Puerto Rico
University of Washington, Seattle, Seattle, Washington
University of Wisconsin at Madison, Madison, Wisconsin
1999年11月1日と2日の二日間にわたって、Coe Forum Focuses on Future of Women's HealthがOWHとAssociation of Academic Health Centersの後援によりワシントンで開かれ、17のCoEsから300人が参加し、下記の6分野について、最善の医療は何か、今後の挑戦はいかにあるべきかについて話し合われた。
Clinical care(臨床)、 research(研究)、 professional education(医療者の育成)、 leadership(女性のリーダーシップの育成)、 partnerships and alliances(パートナーシップと提携)、 community and patient education(地域社会と患者教育)
2001年9月の段階では、Allegheny University of the Health Sciences, Philadelphiaと
Ohio State University Medical Center, Columbus, Ohio、 Yale University, New Haven, Connecticut 、University of Maryland at Baltimore, Baltimore, Marylandの4校がノミネートから外れ、あらたにMCP Hahnemann University, Philadelphia, Pennsylvaniaが入り15校となっている。
2002年11月、米国社会保健福祉省女性健康局(U.S. Department of Health and Human Services Office on Women's Health)より、1999年に運営されていた15ケ所のNational Centers of Excellence in Women's Health(CoEs)についての外部評価結果が発表された。CoEsは1996年から、様様な環境下に置かれ、多様性を有する女性の生涯を通じた健康を改善するため、女性の健康に関する研究、医学教育、臨床、一般市民にむけての健康教育、地域への女性医療の浸透等を統合した新しい健康ケアシステムのモデルを構築することを目的として立ち上げられた(図1)。その使命を遂行する過程では、女性医療者の高等医学教育分野での積極的採用が求められた。具体的な項目としては、下記のごとき項目が上げられている。
@ 女性の健康に関する研究を増やし、臨床の質を高め、ヘルスケアを提供する側の技術と競争力を高めるため、医療者、医科大学等の多角的連携を図る。
A 患者の立場にたち、女性医療センター方式で医療を提供することにより、女性のプライマリケアを統合する。
B 電子媒体を使用して(IT、電話情報、テレメデイシンなど)、健康情報ならびにサービスに女性がアクセスしやすくする。
C 女性がヘルスケアにアクセスしやすいように、オフィス時間の延長、サポート体制の強化等種々の工夫をする。
D 女性のニーズならびにその多様性を反映し、その結果がフィードバックされるような女性の健康に関する研究を推し進めること。
E 研究成果が日常臨床ならびに医学教育に反映されること。
F 医学研究、医学教育ならびに臨床の場で指導的立場への女性の登用。
G 医学教育課程、臨床研修、ポスドク後の研究、医師再教育課程のみならず一般健康教育、女性に関する学習、心理学などに女性の健康が十分に組み込まれるようにする。
H 従来サービスを受けることが少なかった女性を中心として、地域にてよりよいサービスを受けることができるよう、地域との連携を強化する。
I CoEの使命とモデルとしての活動が十分に理解され、高等医学教育施設内にセンターが構築され、自立した機関として運営されること。
これらの目標が着実に実行されているかどうかを問う評価であり、各CoEならびに所属する医科大学の代表者からの現況説明、CoEの施設を利用した患者調査結果とNational dataおよび地域サーベイ結果との比較を行っている。結果としては、各CoEの施設ともCoEとしてノミネートされたことにより、高等医学教育機関における女性健康医療として信用度が上がり、センターに関する情報を取得する機運が高まった。また、従来の医学教育課程に比し、より多くの女性の健康に関する項目がカリキュラムに取り入れられるようになり、専門的ポストに女性が採用されることも多くなった。CoEは女性の健康に関する研究で、研究費を得ることに成功し、地域社会における存在意義をもました。臨床面からは、CoEは国の調査や地域でのサンプリング調査と比較して、より広い分野での臨床予防サービスを提供しており、且つ患者の満足度も高い。多くのサービスが従来ではそのサービスに預かることの出来なかった少数民族、貧困層という階層にも及んでおり、また同時により広い範囲にわたっている。このような成功にもかかわらず、CoEは未だ従来の医療のあり方に固執する学内の勢力からの抵抗との戦い、予算の獲得競争などの困難を抱えており、また、センターのスタッフは、センターでの仕事と自分自身の所属講座における研究・教育という二重の責務を負い、その二つをいかにマネジメントするかに苦慮している。
図1National Centers of Excellence in Women's Healthにおける国家的モデルとしての構図
B. ハーバード大学ならびにカリフォルニア大学ロスアンジェルス校視察:カリフォルニア大学ロスアンジェルス校は、1999年、Prescription for Patient Education Programにより”Outstanding Service to the Community Award” を受賞している。Prescription for Patient Education ProgramとはIris Cantor-UCLA Women's Health Education and Resource Center(Women's Health Centerに付設された患者向けの情報センターである)が開発したもので、処方箋のように医師が患者の必要とする情報(例えば、乳がん、更年期、糖尿病、運動、など)に印をつけ、患者はそれをもってResource Centerに行く。そこでは各種の情報をパンフやWEBで紹介してくれる。これは医師が患者と診断や治療について十分に話し合う時間を取れるよう、患者の健康教育の部分をResource Centerに任せた形になっているものである。実際には職員のほか、ボランテイアの学生や医療経験者が患者の相談に乗っている。
また、同じ1999年Harvard medical Schoolは、American Medical Association's Cultural Competence Compendiumにより選ばれた。この賞は医師が患者の背負う文化を尊重し、個々の患者に会ったケアを提供する(individualized, patient-centered care that respects all cultures)という理念に対して実効のあった施設に対して贈られるものであって、ハーバード大学は女性の医療における不平等性を解消する努力と、多様な文化背景を持つ医師の採用による実績でこの賞を贈られた。さらに、ハーバード大学は2000年のUS news and world report 2000 で発表された女性の医療に関する優れた医療機関トップ10の最優秀医療機関に選ばれている。このときは、実に、ハーバード大学を含む6つのCoEsが優良医療機関としてランクされている。下記に大学と順位を記す。
@Harvard University
AUniversity of California at San Francisco
BUniversity of Pennsylvania
CUniversity of Washington-Seattle
FUniversity of California-Los Angels
GUniversity of Michigan-Ann Arbor
今回訪問した2校以外のCoEsでも各々ユニークなプログラムで女性の医療の底上げを図っている。New Coe partnerships cooking in supermarketはスーパーマーケットと交渉し、その協力により、スーパーマーケットに健康に関するパンフを置く試みであり、ウェブサイト上に情報を提供する試みも行われている。
Resource Center on the Web: www.4woman.gov/COE/index.htm
平成15年度:
1.Mayo Clinicにおける女性医療
メイヨクリニックには、Office of Women's Health:OWHという機関が組織作られており、女性医療に関するさまざまな活動を直接的または間接的に運営・管理、コーディネートしている。
このOfficeはMISSIOINとして、『Creating and administering educational and research program to improve women's health across their life span』(生涯を通じての女性の健康を改善するための、教育・研究プログラムを創造し管理運営すること)を掲げている。このMissionからもわかるように、この機関は女性医療を実践する臨床の組織ではなく、女性医療という分野・思想を医師・医療従事者・福祉関係などすべての医療的行為や情報の提供者および患者に対しての教育を目的としている。また、これらの関係者間の相互理解や協力体制の整備も重要な責務と位置づけている。もうひとつの大きな特徴として、女性に対する健康教育に重点を置くことは、単なる女性医療を目指すものではなく、その先の『Public Health』を見据えているということである。女性を教育するということは、その女性の家族、子どもへの医療教育につながるという考えである。これにはメイヨクリニックの創始者であるメイヨ兄弟の思想が現在も息づいていることを付け加えるべきと思われる。ここにメイヨ兄弟が述べている内容を原文のまま引用する。『When you want support for public health measures, you have to educate the people. When you start to educate the people, you should begin with the women because they will fight for the health of their children.』一方で、女性医療に関する科学的なアプローチも大きな目的のひとつにあげ、基礎的・臨床的双方のResearchにも力を注いでいる。研究者、臨床研究のコーディネーターなどに対する教育や臨床試験参加者のリクルートメントの協力などがそれに当たる。
OWHは公衆衛生的色彩が強いが、メイヨクリニックは現時点では女性医療または女性外来として独立した専門分野はまだ存在していない。この点に関して、OWHとは別組織であるWomen's Health Care Council(以下WHCC)がある。別組織ではあるがOWHとは親密な関係をもち、メンバーの重複も多い。WHCCは、心臓病、腫瘍、代謝、内科、婦人科、泌尿器科、看護部などの実際に女性医療に携わるまたは深く興味をもっている医師たちにより組織づくられている。この会では現在、Women's Health Clinicの開設を企画している。
2004年の1月に開かれた会議では、実際の需要、患者動向、患者の意識を電話アンケートにより調査した結果が報告された。この報告は『Mayo Clinic Brand Monitor』と題された実に興味深いものであった。
当然ではあるが、メイヨクリニックは一私立病院であり、理論・理屈だけから企画しても経営学としてなりたたなければ机上の空論である。この調査は全米に対して行われ、メイヨクリニックのあるロチェスター市やミネソタ州だけを対象にしたものではない。その詳細な検討の一部を紹介する。まず、治療を受けるのであればどの施設がいいか?の問いに対し、26.6%が第一または第二にメイヨクリニックをあげ、最もPreferenceが高い結果であった。
ちなみに第2位はJohns Hopkins、第3位はDukeとなり、以下Sloan Kettering, Cleveland Clinic, MD Andersonとなっている。地域ごとに高低はあり、太平洋岸地域ではUCLA、New EnglandではHarvardがトップである。メイヨクリニックにおける活動・特色については、がん治療が最初に挙げられ、以下科学的研究、心疾患治療、神経外科、移植とつづき、Women's Healthcareはその下に位置した。先にあがった部門はいわゆるメイヨクリニックの売りであり、いかんともしがたいところではあるが、現在OWHを中心にメイヨにおけるWomen's Healthcareの認識を全国的に広める努力を行っているところといえる。
引き続き、『National Research Corporation Healthcare Market Guide』による調査報告が紹介された。実際に患者がどんなことでメイヨクリニックを受診しているかが示されたが、やはり移植、がん、神経疾患、心臓病が上位を占め、女性医療/婦人科部門は13番目であった。ミネソタ州における女性医療/婦人科部門受診者は州内でも第3位であり、他の施設にその地位を譲っている事実も紹介された。
結論として、「女性健康管理の供給者としてのメイヨクリニックの認識は1998年から増加しているが、女性医療/婦人科部門に関し患者がメイヨクリニックを好んで選択する行動は、最近増加をみていない。しかし、女性医療全般として考える時、他の各部門における専門化された女性を対象にした医療サービスは確実なインパクトをもって増加している。」と述べられた。これらの調査結果から、改善するべき部門や力を入れるべき部門が見えてきた。これを基にどのようなセッティングを行っていくかが今後の課題である。メイヨクリニックの活動は、大きく分けて教育、調査研究、臨床実践の3つに分類できる。現在は特に教育部門に最も力が注がれている。種々の教育プログラムは異なったTarget Audienceを設定しており専門家から少数民族の女性にまで及んでいる。テレビ放映される『Perspective in Women's Health』は、米国内のみならず、カナダ、メキシコ、EU、サウジアラビアなどにも放映され各国での教育プログラムの一環(各国の医師や看護婦の教育制度の認定をうけている)とされている。
2.オーストラリアにおける女性医療
A.現在施行されている女性政策の総括的内容:連邦政府及び州政府の助成金を得て女性政策が行われている。基本的にはその内容は共通しているがその規模と方法や助成額は各州で異なる。子宮ガン、乳がんなどの無料検診システムは軌道にのりすでに20年以上の歴史を持っており、定期的な検診が行われている。家族計画・出産・育児のための行政サービスは地域の中のケアセンターが行っている。各地に点在する女性相談センターがそれぞれの地域の特徴を生かした政策とサービスが提供している。最近の女性問題の焦点はさらに汎社会的なものとなり、家庭内暴力のような社会基盤の崩壊に広がる問題の特定とその対策に目が向けられている。
地域活動に従事する人たちの業務目標として次の4点が掲げられている。
1.質の高いヘルスケアの提供者であれ
2.専門家としての教育とトレーニングの重要な提供者であれ
3.各疾患の早期介入に心がけ、地域の個人、家庭、グループと協力して地域社会の発展をめざせ
4.政府、ビジネス業界、非政府組織、消費者にとってお互いに有益であるためのパートナーシップをめざせ
健康支援政策としては、継続的女性健康支援政策、最近需要の増してきた女性健康政策、若年者を対象とした教育・指導に大別される。
a.継続的女性健康支援政策
1.ガン検診
オーストラリアでは50歳から69歳の女性は2年に1回の乳がん検診は無料で受けられる。無料検診の方法・回数は州により若干異なっている。女性医療センターでも公立病院でも検診が行われている。シドニーではデパート内にローズルームと呼ばれるマンモグラフィを装備した相談室が設置された。この相談室の目的は職場で最前線に働く女性たちの乳がん検診率を上げることにある。これとは別にシドニー郊外にはブレストスクリーニングバンなる車が検診用に使われている。この車もマンモグラフィを搭載している。車の外装は検診を思い出させるようにデザインされている。このバンは2001年に導入され、検診場所を増やして検診者の増加に努めている。すでに50-69歳の女性の受診率は54%である。50歳から69歳の女性の70%がレギュラーの検診に参加すれば、乳がん死が30%減らせると計算上されている。子宮ガン検診も定期的に行われ、女性医療センターにて検診の際、頚部スメアの検体が採取される。採取者は必ずしも医師とは限らず、女性が担当することになっている。がん検診の啓蒙活動として、ポスターの配布やビデオの貸し出しが行われている。
貸し出しビデオの内容は、以下のようなものである。
1)パパニコロ検診で異常結果がでた女性の物語
2)主人公がいかにして子宮ガン検診結果の意味を学び、治療についての情報を得て病気に取り組めるようになったか?
3)マンモフラフィ検診を受けることが怖かった女性がそれを克服して検診に参加するにいたったかの経過の物語
4)2人の乳がん女性の体験記 乳がんとどのように向かい合い、治療を受けて回復に至ったかの物語
b.最近需要の増してきた女性健康政策
1)メンタルへルス
心理学を専攻したカウンセラーが個別、グループ療法を行う。うつ病などの重症者は医師にまかせられることが多い。
2)家庭内暴力
家庭内暴力は現在、需要の高い重要な課題となっている。健康問題以外の法律問題、家庭内暴力、セクハラに関しては弁護士を紹介してくれる。無料で女性弁護士に電話相談ができる。電話相談は一人の人が長時間に及ばないよう職員が電話のひきつぎの調整にあたる。もし内容が長時間に及んだり、裁判になりそうなこみいった内容の場合は個人的に弁護士と相談するようになる。そうした場合は有料になるが、収入がない人の場合は弁護士費用を州政府が負担してくれる。オーストラリアは陪審員制度であり、こうした裁判の実際の流れなどはパンフレットや法律相談を通じて相談当事者に説明がなされる。電話帳には無料法律相談の電話番号が載っている。無料法律相談はサービス時間が設定されているが、暴力問題に限り即時に相談ができるように緊急電話番号が示されている。
c.若年者を対象とした教育・指導
性教育は学校保健の中で教育が行われ、直接行政がかかわらないが、さらに大きな問題については行政担当者が学校教育の場を使って若年者を教育する。
平成15年度:
ICT という情報手段を利用した「性差医療情報ネットワーク NAHW ( New Approach to Health and Welfare ):http://www. nahw.org」を立ち上げ、多くの医療従事者の賛同を得ることで、全員参加型の Web サイト上での情報交換と知識の取得を目的としたWebサイトを構築した。本研究においては、コンテンツとなる情報を収集しサイトへの情報更新を推進することと、情報を管理し配信するためのシステムを構築するという2つの課題がある。まず、コンテンツとなる情報収集は、下記の11項目を大項目とし、各項目においての情報収集を推進する。
1. 米国における最新の医療関連ニュースの配信
米国における最新の医療関連ニュースリリースをインターネット上で検索をし、日本語翻訳をする。その情報をサイトに更新する。
2. 国内各地の女性外来の紹介
国内の女性外来の病院を紹介する。大学・国立・公立・私立病院別、診療科別、担当医師の紹介、診療時間などの情報を公開する。
3. 海外の女性外来の紹介
世界をアメリカ・カナダ・ヨーロッパ・オーストラリア・アジアという5つのエリアに分け、各エリアで、どのように性差医療が取り組まれてきているのか、今後の方針などをリサーチし報告する。
4. 海外情報
海外の性差医療情報を収集し、更新する。
5. 国内情報
国内で公開されている情報を収集して更新する。
6. 学会情報
国内・海の学会における性差関連情報を報告する。
7. 文献情報
国内・海外における性差医療に関する文献情報を収集し更新する。
8. 症例研究
女性専門外来での症例集を作成する。
9. 統計情報
性差に基づく医療のエビデンスとなる統計情報を作成または検索、収集する。
10.リンク集
性差医療情報に関連する情報サイトとのリンク集を作成する。
11.性差医療に関するセミナー・研究会・勉強会の開催とカレンダー
性差医療に関するセミナー・研究会・勉強会のイベントを管理する。
次に情報を管理し、配信するためのシステム構築として、Web DBを基本に開発を行うことにした。限られた研究費を有効に使うために、初期のデータ量が少ない間は、プロトタイプを作成することを目的とし、Microsoftが提供しているIIS, ASP, SQLをベースにシステム構築を行った。また、システムの構成は2階層からN階層への移行を考えて行うことが条件である。情報量が充実し、コンテンツの内容、データ量が増大した場合、システムパフォーマンスの対策、セキュリティの強化などが要求されるようになる。その準備として、大学病院医療情報ネットワーク研究センター(通称:UMIN)を利用して、システムの分散化を図った。UMINは、国際的にも類例のない大規模かつ多機能な公的研究教育情報ネットワークである。
1. 米国における最新の医療関連ニュースの配信
この情報サイトは、米国における最新の医療関連ニュースリリースをインターネット上で検索をし、日本語翻訳をサイトに更新している。平成15年度は、まず、情報を収集し蓄積することを主とした。翻訳対象となるプレスリリースはすでに300本の収集が完了し、分類項目がつけられSQLデータベース上で管理されている。
2. 国内各地の女性外来の紹介
この情報サイトは、国内の女性外来の病院を紹介している。大学・国立・公立・私立病院別、診療科別、担当医師の紹介、診療時間などの情報を公開している。国内女性外来情報管理システムは、性差医療情報ネットワーク事務局のSQLデータベースサーバーで構築された。しかし、女性専用外来が、全国各地で行われるようになり、情報の更新と新規情報が多く提供されるようになり、また、一般人のWebサイトへのアクセスが急速に増大し、現行のサーバーでの運用が困難となった。UMINを活用させてもらうことでシステムの負荷分散を図ることができ、かつ、一般向けの情報と、医療従事者向けの情報発信サイトをわけることが可能となった。また、UMINを活用していない医療従事者に対しては、UMINサイトの利用推進の啓蒙ができることになった。これらを実現させるために、図 1.のごとき全国の女性外来情報管理データベースのシステム構築が必要となった。
図 1. 全国の女性外来情報管理データベースの関係(UMIN側と性差医療情報ネットワーク)
図 2. 全国の女性外来情報管理データベース
性差医療情報ネットワークのSQLデータベースサーバーでは、全国の女性専用外来の情報が保存され(図2)、Webサイト上では、それを参照するのみと限定する。UMIN側のORACLEデータベースには、性差医療情報ネットワークのSQLデータベースサーバーに保存されているものと同じデータを移行して、検索機能を追加した。これによって、ユーザーは、女性外来の情報を県別、病院別、診療別、症状別で検索できるようになる。
3. 海外の女性外来の紹介
アメリカ・カナダ・ヨーロッパ・オーストラリア・アジアという5つのエリアにおける性差医療の取り組み、今後の方針などをリサーチし、その情報を発信した。
4. 海外情報
この情報サイトは、海外の性差医療に取り組んでいる大学・研究機関・病院の実態調査報告である。昨年はハーバード大学における事例を掲載した。
5. 国内情報
この情報サイトでは、国内で公開されている情報を収集して公開する。昨年は、永山による「人の遺伝子と性」、天野が日本経済新聞に連載中の“はつらつ”からの記事の転載が掲載されている。
システム構築においては、ORACLデータベースで情報を管理し、Webサイトから情報検索ができるシステム開発をした。この検索システムは、テキストデータだけなく、画像データの検索もでき、ビデオ情報の配信もできる。しかし、このシステムを使うためには、十分なコンテンツがなければ、このシステムを運用するメリットがない。そのため、本研究においては、HTMLでのページ作成をし、情報公開した。女性外来に関するリソース管理サイト(図3,4,5)は、プロトタイプとして公開し、多方面の意見を聞きながら、情報管理、公開における基本システム設計をおこなった。
図3. 女性外来に関するリソース管理サイト(目的にあった情報を検索する。)
図4. 女性外来に関するリソース管理サイト(検索条件にマッチした情報をリストする。)
図5. 女性外来に関するリソース管理サイト(選択された情報を表示する。
6. 学会情報
この情報サイトは、国内・海外の学会における性差関連ニュースを掲載する。昨年は、国内では、「2003年3月1日: WHO 国際シンポジウム『男女差に敏感な医療』、海外では、「2002年10月23・24日: WHI メノポーズ期のホルモン療法に関するワークショップ」でのインタビュー報告が掲載されている。
7. 文献情報
この情報サイトでは、国内・海外における性差医療に関する文献情報を収集し更新する。昨年は、以下の文献を掲載した。
米国の文献集として
? Women's Health Care Competencies Sample Learning Objectives for Undergraduate Medical Education
? Women's Health Bibliography January 2003
日本の文献集として
? 平成14年度厚生労働科学研究(子ども家庭総合研究事業)報告書: 主任研究者 天野恵子『日本における女性医療の課題に関する医療社会学研究ならびに性差を加味した健康度及び生活習慣の測定手法の評価に関する研究』
? 呼吸器疾患における性差について: 永山洋子
8. 症例研究
この情報サイトでは、女性専門外来での症例集を作成する。このサイトは現在工事中である。
9. 統計情報
この情報サイトは、性差に基づくエビデンスとなる統計学的情報の作成や、検索、収集をする。昨年は、全国の女性専門外来のマップ図を掲載した。
10. リンク集
この情報サイトでは、性差医療情報に関連する情報サイトとのリンク集を作成する。現在は海外情報サイトのリンクがされている。
11. 性差医療に関するセミナー・研究会・勉強会カレンダー
この情報サイトでは、Webベースで、性差医療に関するセミナー・研究会・勉強会のイベントを管理するカレンダーを作成した。
平成16年度:
1.Webアプリケーションの充実:性差医療情報ネットワークのコンテンツには、平成16年度当初、海外ニュースリリースは145ページ、女性外来病院サイトは各県ごとのコンテンツとし、63ページとなっていた。また、16年度にはあらたに男性外来病院サイト63ページを追加した。来年度は、海外ニュースリリースのコンテンツがあらたに50ページ、また、女性外来がすでに全国で300箇所以上となり、これらの情報をさらに細分化したコンテンツに変更する必要がある。これらの新規コンテンツを維持するために、16年度は、大量のコンテンツを含むWebサイトの情報を素早くかつ簡単に検索できるシステムの基盤づくりをした。作業項目としては、以下の項目においての変更ならびに拡張を行った。
ア.目的に適した方法でコンテンツを検索、整理およびナビゲートできる環境とする。
イ.サイトビジターから提供されるデータを収集、保存および分析可能とする。
ウ.頻繁に変更されるコンテンツを含むWebサイトの更新が簡単かつ管理できるようにする。
エ.静的Webページの処理の充実と、動的Webページの処理が対応できるように変更する。
オ.データベースへのアクセスを、従来のMS/SQL server だけでなく、Microsoft Access, Oracle 9i, MySQL などの各種のデータベースに対応できるように適切なデータベースドライバをサーバ側に準備する。
2.Webサーバの移行、拡張性の対応:会員限定のサイトのコンテンツとして、各セミナーで収録したビデオを公開するという要望があり、当初から会員限定のサイトとして、UMINサーバを借用することで実現を目指してきた。ストリーミング動画ファイルは、ウエブページの文字や画像などと違って、単にサーバに置いたからといって、勝手にエンドユーザまで届くというものではない。ストリーミングは、動画データを「送受信しながら再生する」技術であるから、常に安定してエンドユーザまで動画データが届かなければ、きちんと再生されない。つまり、配信サーバだけでなく、配信ネットワークインフラもセットとして考え構築することで、プロフェッショナルなストリーミング配信が可能となる。本年度の作業としては、会員メールアドレスから、其の属しているプロバイダを分析し、ターゲットとなるセグメントを分析し、来年度のストリーミングサービスのパイロットスタデイの対象ユーザの絞込みを行った。対象となる基準として、以下の項目でセグメントを定めた。
ア.大手回線キャリア系のストリーミングサービスが受けられる方、つまり、ユーザが、直接バックボーンに付属しているISP接続ユーザ。
イ.CATV/ADSL/FTTHプロバイダ系ストリーミングサービスが受けられる方、つまりユーザが、CATV/ADSL/FTTH 網の中にいるユーザ。
ウ.まったくストリーミングサービスを実施しても、配信を受けることができないユーザ(エンドユーザ側がブロードバンドだというだけで、動画がきちんと流れるわけではない場合)
3.種開発言語の対応化:昨年度までは、開発言語環境を、ASPのみ対応していた。しかし、Microsoft 社がNET Framework を公開したことにより、ASP.NET開発者用にサーバー環境を設定した。また、動的Webサイトの作成を念頭に、JSP開発者のためにも、システム上にJRE(Java Runtime Environment) の環境も準備した。
4. メールシステムの充実化:本年度は、メーリングリストの配信ができるように、メーリングサーバーの設定を行った。パイロットスタデイとして、役員のみで運用を実施し、その後全会員向けのメーリングリストの配信を行っている。
5.ウイルス・セキュリテイの対策:本年度は、ウイルス対策として、3社のウイルスソフトメーカーを併用することで、被害を受けることはなかった。また、常に、JCSA(日本コンピュータセキュリテイ協会)、IPA/ISEC(独立行政法人情報処理推進機構)などから、情報を収集することで、事前対策を行った。
性差医療情報ネットワークのウエブサイトは、現在、女性外来情報ならびに海外ニュースが随時更新されており、女性外来に関する情報ソースとしては最も信頼が置けるサイトであり、ユーザーからのアクセス数が最も多い医療ウエブサイトである。ホームページならびにメイリングリストにより全国で展開されている女性医療関連のセミナーの紹介、予約申し込みをも行っている。年に1回学術集会を行い、女性外来担当医師の情報交換の場ともなっている。NAHWについては千葉支部が平成15年度に、東京支部が平成16年度に立ち上がり「性差に基づく女性医療」を目指した系統的な勉強会を展開している。
平成15年度:女性外来の実態に関するアンケート調査用紙を送付した35都道府県111ケ所の女性外来の内訳は、大学医学部付属病院19施設、国公立病院55施設、私立総合病院14施設、その他23施設であった。回答率は70%(74施設)で、大学医学部付属病院11施設、国公立病院39施設、私立総合病院5施設、その他19施設であった。運営形態としては、多くは女性医師による診療体制であるが、中には男女医師混合型(4施設)、男性医師によるもの(5施設)なども見られる。また、女性外来構成形態としては、内科のみで運営している施設が22施設、産婦人科のみが14施設、内科・産婦人科によるものが6施設、肛門外科のみが5施設、乳腺外科のみが4施設、最も需要の多い産婦人科、精神科または診療内科、内科の3科を有する施設は5施設にとどまっている。
初診時に30分以上の時間をかける施設が50施設、診察にあたり主訴、症状を問わない施設が55施設であった。女性外来には大きく分けて2つのニーズがある。一つは、女性(時には男性)医師による十分に時間をかけた傾聴と診療時の丁寧な説明であり、もう一つは女性特有の病気の特徴を知る医師が男性との違いに留意して治療を行うことである。
前者については、アンケート結果でも、医師の側からは、器質的には異常が認められなくても、様々な症状で苦しんでいる患者の存在を知ることが出来た。同性として患者の状況を理解しやすい、同性であることが役に立つことに気付いたなどに代表される肯定的な意見が多く、初診に30分〜60分かけて話を聞くことで、次回からはそれほど時間をかけなくても、医師・患者とも納得できる医療が提供できること、傾聴が重要な治療スキルであることが強調されている。また、患者の側からも、「病気かどうか」「何科を受診したらいいのかわからない」「セカンドオピニオンを聞きたい」などの患者にとって、女性外来という標榜は受診しやすい。
患者の意思を尊重した丁寧な説明で、医師への不信が和らいだ。自分の疾患や加療への意識が高まり、結果として治療効果が一般外来より良いなど、高い評価を得ている。総体的な女性外来満足度を患者に問うた場合は、従来の医療現場では考えられなかった十分に時間をかけた問診、丁寧な説明により女性外来患者の満足度はかなり高いと考えられる。
しかし、一部の大学病院のように、各科の専門医師と理学療法士、臨床心理士などのパラメデイカルを揃え、一人の患者に対して、多様な角度からアプローチ出来る「女性が気軽にかかれる総合診療部」体制を構築可能な施設では、医療技術的アドバイスの面でも、患者が十分に納得のできる医療サービスを提供することが可能と思われるが、地方都市病院など各科の専門医師を配置できない施設における女性外来では(ことに産婦人科医、精神科医を欠く場合)、担当医師が女性に特有な疾患または健康状態について、十分な知識を持ち、対応し切れているかどうかは疑問である。今回のアンケート結果を見ても、自分の専門外の症状・主訴で受診された患者については、十分に対応しきれず、研修の必要性を認識するとともに、適当な医師に紹介したくとも、他科の女性医師または専門医の情報が十分に開示されていないと感じている。
女性を的確に診察できる医師の養成が急務であり、ゆくゆくは医学部におけるカリキュラムの中に性差医療・医学に関する概念と実践が組み込まれることが重要である。しかし、それに先立って、現在女性外来で自分の専門とする分野以外の研修を必要としている女性医師に対しては、研修の機会を作っていくことが要請されており、我々が立ち上げたITによる性差医療情報の発信はその一つの形であり、また性差医療・医学研究会のめざすところは性差が疾患に与える病態等についての研究の発展を図り、広く意見交換を行うことにより、臨床への応用および医療施策への反映に寄与することである。
アンケート調査依頼をした111施設のうち、創設年月日が判明している施設数は90施設で、2001年以前の開設施設数が19施設、2002年開設施設数が23施設、2003年開設施設数が48施設である。外来の名称については、女性専用外来、女性総合外来、働く女性専門外来など多岐に渡っている。女性外来が設立された経緯については、大學では女性外来の必要性を認識した教授が発案し、担当講座単独で、または他の講座の協力を得て複数科で開設している。国公立では、院長による発案と政府、県議会ないしは市議会での決定をうけての国、県、市町村立病院での開設のほか、開設された女性外来担当医自身が発案者であるケースも見られる。運営形態としては、多くは女性医師による診療体制であるが、中には男女医師混合型(例:国立成育医療センター、福井医科大学、県立静岡がんセンター、京都府立医大)、男性医師によるもの(例:弘前大学中高年女性外来、島田総合病院、浅ノ川総合病院、麻生飯塚病院、及川病院)なども見られる。また、女性外来構成形態としては、内科医のみで運営している施設が22施設、産婦人科のみが14施設、内科・産婦人科によるものが6施設、肛門外科のみが5施設、乳腺外科のみが4施設、最も需要の多い産婦人科、精神科または診療内科、内科の3科を有する施設は5施設にとどまっている。初診時に30分以上の時間をかける施設が50施設、診察にあたり主訴、症状を問わない施設が55施設であった。
女性外来を担当した医師に女性外来を担当してよかった点、困った点等について解答を求めた結果を纏めると、主な意見としては以下の項が上がってきた。
●女性外来を担当してよかった点:
1. 女性の患者が女性の医師を探していたことが良く分かった。患者が男性医師には言いにくいことも話しやすいという。
2.どこに行ってよいか分からない患者さん、各科からはじきだされた患者の窓口になれる。器質的には異常が認められなくても、様々な症状で苦しんでいる患者の存在を知ることが出来た。
3.同性として患者の状況を理解しやすい、同性であることが役に立つことに気付いた。
4. ゆっくりと時間を取って患者と対応でき、今までの診療で感じていたジレンマを感じない医療が出来た。
5. 患者の訴えを時間をかけて聞くことにより、患者の背景が明らかになり、よりよい治療につながった。傾聴の重要性を認識した
6. 心と体を含めた総合的な医療(全人的医療)の有り方について考えることが出来た。
7. 女性外来は患者にとって病院を受診する敷居が低くなり、満足度も高いことが実感できた。
8.他の職種との連携の中から、違った観点で物を見ることができるようになり、視野が広がった。
9.性差に基づく医療の実際を勉強できる。自分の専門外の領域にも触れ、大いに勉強になる。
●女性外来を担当して困った点
1. 患者数が多く、待ち時間が長くなってしまう。また、予約がとりにくい状況が続いている。
2. 担当する女医を増やしたいが、「全ての主訴に対応」と言うところでしり込みされ、担当医が増やせない。また、自分の専門外領域の主訴については、満足行く対応が出来ず、研修の必要性を感じる。
3. 心の問題の診療が非常に大きいにもかかわらず、技量不足を感じる。
4. 外科、泌尿器科、精神科などを含め、各科に女性医師が必ずしも揃っていない。また、紹介や連携を取るときに女医を見つけにくい
5. 従来自分が担当していた診療域の通常業務をこなしながらの女性外来のため、精神的、身体的負担が大きい。
6. 医療の問題でないことも相談内容には多く含有される。コストパフォーマンスが悪いのではないか。
7. 精神科では話を聞いてもらえないからこちらに来たいと言われる。また、精神的、性格的な問題を抱えていると思われる患者がいる。
8. 女性外来受診後、各科での継続診療ではなく、女性専用外来での継続診療を希望される方が多い。
9. 女性外来担当医はある程度の年齢と社会経験があることが望ましいが、本人に余程の自覚がないと女性外来担当医師の養成には時間がかかる。
10.外来を訪れる患者は、一般の外来と異なる悩みが多いが、参考となる資料が少ない。(マニュアルの必要性)
11.病院全体で取り組んでいないので、他科や男性医師の協力が得られない。
●患者さんからの声
1. 女性医師なので、男性医師には言いにくいこと(パートナーとの問題や泌尿生殖器に関する悩み)も話せる。話を聞いてもらっただけですっきりした。
2. 初めて話を聞いてもらえた。どこへ行っても気のせい(年のせい)だから「気にするな」と言われてつらかった。
3. 患者からの良い評価:あらゆる症状・疾患への対応、十分な診療時間、医師からの一方的でなく、患者の意思を尊重した丁寧な説明、女性の立場でのアドバイス、気安さと、安心感、長年の悩みを相談、解決できた。心強い、医者不信が和らいだ。女性外来を待っていた。知人にも勧めたい。
4. 患者からの要望:質の良い診療の継続、他の施設での開設、各科の女性医師の充実、多くの人に宣伝してほしい。
5. 患者からの悪い評価:予約の対応時間が限られている。予約から受診までの待ち時間が長い。開設日が少ない。自分が必要とする専門科の女性医師がいない。医師が若すぎて相談しにくい。
6. 診療時間にも余裕があり、各専門科の女性医師が診療することで、安心感や信頼感が持て、自分の疾患や加療への意識が高まり、結果として治療効果が一般外来より良い。
7. 重篤な疾患が無いことが判った後も、今後はもっと気軽に医療機関を受診することの重要性を認識した。
8. このような外来出始めて自分の病気が治った(更年期障害、精神的疾患など)
9. 婦人科、内科、心療内科、乳腺科があるので、ここだけで済ませられる。
10.病気かどうか」「何科を受診したらいいのかわからない」「セカンドオピニオンを聞きたい」などの患者にとって、女性外来という標榜は受診しやすい
11.性医師に対する安心感。総合診療のメリット(身体の不調を色々な面から診てもらえるので安心できた。たらいまわしにされることなく、適切なアドバイスで、適切な検査を受け、安心して専門科を受診する心構えが出来た)
12.更年期を考慮に入れて、全体的に診てもらえるので安心、更年期の過ごし方が老後の生活全般に影響してくるとはじめて知った。
13.他の外来も女性外来のようにプライバシー、診療サービス内容について検討してほしい。
●院内における他科、男性医師からの支援体制(回答施設数:69)
満足に行われているとの答えが施設
現在模索中が9施設
●今後の女性外来のあり方について
1.女性が気楽に相談できる場として地域に根付く為には自助グループとの連携、女性サークル等への出張講演、学校との連携(性教育など)が必要
2.行政にも担当者がほしい(性犯罪被害者のケア、地域における女性医療ネットワークの構築)
3.理想は性差を考慮し、女性の生涯にわたる健康についてサポートできる総合診療科として発展すること。その為には、日本女性におけるエビデンスの構築(特に更年期障害の治療計画を立てる上で、日本女性の確固たるデータ)が必要であり、性差医療の臨床および基礎研究の充実が図られなくてはならない。
4.女性外来を専門的にやりたいと希望する医師が、臨床、研究、教育の面で専任できる総合診療の展開が必要であり、医師の育成が急務である。また、結婚、妊娠、出産、子育で中断されることのある女性医師が継続して医業を行いうる受け皿になること。
5.総合外来タイプ、専門科外来タイプ、健診・ドックタイプと揃うことが望ましい。
6.婦人科、乳腺、泌尿器科、肛門では同性の医師による診療希望に応えるべき
7.性差を考慮に入れての医療は、これからは全ての診療科で行われるべきである。専門性の高いドクター間での連携も重要だが、もっとそれ以上に、一人の人間を医療的な面からも社会的な面からも正確に把握、振り分けできる機能をGPが、また全ての医師がもてるのが理想である。
8.「女性が気軽にかかれる総合診療部」各科の専門医師と理学療法士、臨床心理士などのパラメデイカルが揃い、一人の患者に対して、多様な角度からアプローチ出来る体制がよい。女性外来より女性医療センターのような独立した施設が理想である。
9.女性専用外来を担当して、患者が如何に医師との意思疎通がなわれていないかと痛感する。今後厚生労働省で、医師が十分に時間をかけて患者との十分な相互理解、信頼の本で医療を展開することに保険点数で評価してほしい。
10.簡単にホルモン療法のみで改善する人は少ない。うつ病を含めた考察がかなりの部分を占める。生活習慣病、骨粗しょう症など40歳移行のライフスタイル全般を指導していく必要がある。婦人科主体の女性外来のみでなく、更年期として見過ごされていた病態をもきちんと診断、治療していく女性のための総合外来。
11.受診者は、ある程度の金銭的な負担をしてでも質の高い診療を求めているが、混合診療が出来ない。現在では自由診療で、相談に乗り振り分けをし、他日専門外来へ受診して検査、治療をすると言う二度手間が生ずる。その際、振り分けだけの女性外来は当然コストパフォーマンスが悪い。
12.一医療機関だけでは問題が解決しないことも多く、近隣機関との連携体制が必要。各医療機関の枠や利害を超えた地域における女性医療ネットワークを切望し、行政の取り組みにも期待したい。
平成16年度:平成16年12月現在で確認できた女性外来設置医療施設数は328であった。医科大学に附設された者が29、国立・県立・市町村立が105、社会保険・労災保険病院等が18,私立が121,所属不明が55である。設立年度は2003年前半期から急増し、2004年後半期からは減少してきている。(表3,図6)
表3 女性外来設置年月日による区分け(2004年12月末現在)
図6 女性外来設置年月日によるグラフ(2004年12月末現在)