1999年以来の性差医学・医療への注目は、日本におけるEvidence-based Medicine(EBM)の概念の浸透と無縁ではない。今までの臨床医学に性差の切り口が欠けていたことを、EBMの概念が浸透しつつあった日本では、各医療分野ですんなりと受け入れていただくことができた。日本における性差医学、医療のアプローチは、かなり前から散発的にはあった。
1992年に始まった「性差医学研究会」は、婦人科、泌尿器科、老年病領域の臨床科と生理学、内分泌学、脳科学などを専攻する基礎科学者による研究会で2001年まで続いていた。其の流れの中で、性差医療・医学の実践の場としての女性外来は、日本における従来の医療の中で十分に対応されずに見過ごされてきた女性のニーズを拾い、ブームともいえる全国展開を見せ、男女共同参画社会がもたらすであろう、未来の女性の健康問題を先取りした「生涯にわたる女性の健康管理システムの構築」をめざす女性医師たちの熱意によって確実に根付き始めている。
女性外来の設立初期には、行政または上部組織主導で開設され他施設において、女性医師というだけで女性外来の担当とされたものの、其の意義を十分に理解しえず困惑していた医師も少なからずいたと聞き及んでいるが、近年では、女性外来のロールモデルとなりうる施設も増え、女性外来担当医の活躍が様々なメデイアで情報発信されるにいたり、徐々に女性外来のあるべき姿が理解されつつある。女性外来は女性が気軽に受診出来る総合診療部であり、そこには治療のみならず、受診者に対する教育という側面も期待されている。医療者はコミュニケーションスキルに通じ、かつ科学的根拠に基づいた女性医療専門知識と技術の提供が可能でなくてはならない。医療・医学が進み、膨大な知識と技術が蓄積されている現在、一人の医師がそれらに十分に対応しうることは望むべくもないが、専門医同士のネットワークの構築により、統合医療が可能となる。また、時には患者の抱える問題は、医療者のみでは解決し得ないこともある。専門知識と技術を持ち合わせた医師、コメデイカル、行政等がネットワークを構築し、其の専門性を互いに生かして、受診者に医療ならび社会的解決法を提供していくことが必須となる。
今後、ゲノムとインフォマテイクスの時代、21世紀の先端医療のあり方の一つに、個人差の解明に光を当てたゲノム情報によるテーラーメイド医療が掲げられている。データの蓄積によって科学的論理がより確かなものになれば、薬剤の副作用の回避、有効な薬剤の選択といったことが事前に可能になる。もちろん、性による易罹患性や治療への反応性の差も解明され、個人の特性に着目した治療は更に洗練されるに違いない。マクロレベルでの虚血性心臓病や脳卒中の有病者数、患者数、危険因子の集積などは年齢と性差が最も大きな修飾因子である。これらの性差に関する研究成果が還元されるプライマリケアの場所として女性外来は其の重要性を増していくと考えられる。
21世紀にはいってわが国の行政施策の軸足が健康であることはいまや明白である。健康に関する概念の設定、法律の施行、研究支援体制の充実の3本柱は健康日本21、健康増進法、健康フロンテイア戦略と相次いで実現しているが、この中で「女性の健康」は大きな主題である。女性医師の増加と女性外来の相次ぐ開設は、うけざらとしての充実を示唆しており、性差を意識した個別化医療は期待の分野である。大学病院での女性外来設立が速い速度で進められている。多くは女性医師の自発的な参加により成り立っているが、今後性差医学研究の進展とともに、性差医療・医学が医学教育の中に組み込まれ、全ての医師が医療サービス・医学研究において性差の視点を当たり前とした医療展開が可能となることが望まれる。
表1 日本における性差に基づく女性医療のあゆみ
表2 2005年12月末の女性外来設置状況
表3 女性外来設置年月日による区分け
図1 女性外来設置年月日によるグラフ
図2 千葉県における女性健康支援ネットワーク