平成16年度厚生労働科学研究費補助金 子ども家庭総合研究事業

 

U-(3)  性差に基づく女性医療  
患者調査・データファイリングシステム・遺伝子多型臨床研究

 

  研究協力者  竹尾愛理(千葉県立東金病院総合診療科)

研究要旨

性差に基づく女性医療の実践現場である女性外来の成果の実証と更なる確立を目指し下記の研究を行った。

1.千葉県立東金病院女性専用外来の器質的疾患及び内分泌学的検討

2.女性専用外来データファイリングシステムの開発

3.更年期障害とエストロゲン受容体多型との相関に関する臨床研究

その結果以下のことがわかった。

1.女性専用外来においては、更年期障害、精神神経疾患、及び器質的な疾患に対する対応が求められる。悪性腫瘍を診断されることも少なくない。不定愁訴を訴える患者の中に重大な器質的疾患が存在している。女性外来は患者の受診に対し敷居を低くし、症状が多岐に渡り診断しにくい患者も時間をかけて診察することにより、診断を可能としていると考えられる。

2.年齢、居住地、タバコ、アルコール等の嗜好、閉経年齢、症状、既往歴、検査値、有効治療、副作用、受診者の生活上の背景因子、転帰や他科紹介等について、ポップアップリストで選択することが可能であり、多数のデータの入力が可能な女性外来担当医用システムファイリングを開発した。病名に関しては将来電子カルテ中において利用できるようにするため、 ICD 10のコード番号と連携したソフトを構築した。

3.更年期症状の有無或いは重症度と、エストロゲン受容体多型との関連性が初めて明らかになった。これは、更年期障害の早期診断や、予防、新しい治療法にも繋がる重要な発見であると考えられる。予め更年期症状に対して、予防的な治療を行うことによって、更年期症状の重症化を予防する可能性があり、著しい生活の質( QOL )の低下を防ぐことができればその効果は大きく、オーダーメード医療の実践が可能になると思われる。

 

1.千葉県立東金病院女性専用外来の器質的疾患及び内分泌学的検討

 A. 研究目的

千葉県立東金病院では平成 13 年 9 月、都道府県立病院としては初めて女性専用外来を開設した。女性特有の疾患を心と身体を総合的に診療する個の医療を目指した女性外来は受診者の高い支持を得て全国に広がりを見せた。しかし、女性外来の診療分野としての立場は、未だ確立されておらず、実際の女性専用外来については、まだ個々の施設が手探りで行っているのが現状である。また、受診者は明確でない主訴をもちながら、精査の結果、悪性腫瘍などの重篤な疾患が診断されることも稀ではなく経験されてきた。そこで、我々は、女性外来の現状を分析することにより、女性外来における受診者のニーズを明確化させ、医療のレベルをアップしていくことにより、更にレベルの高い女性外来を確立させることを目的に、当院の女性外来受診者の主病名の最終診断名を分析した。

 

 B. 研究方法

千葉県立東金病院女性専用外来に平成 13 年 9 月開設時より平成 15 年 8 月までの 2 年間で受診した 879 名について、主病名における診断及び骨代謝と甲状腺機能について分析した。

 

 C. 研究結果

•  診断は更年期障害が 27.3 %、気分障害などの精神疾患が 24.2 %、月経困難症、月経前症候群などの婦人科疾患が 15.8 %と多くを占めた。更年期障害や月経前症候群でも何らかの精神症状を示すことが多く、精神的な症状への対応が必要であることが明らかになった。器質的疾患は 21.6 %であり、冷え性等の不定愁訴を訴えるものが 5.9% であった。

•  器質的疾患のうち、精神科疾患および産婦人科疾患をのぞくと、内科疾患が 52.6%, 皮膚科 8.9%, 泌尿器科 8.4%, 整形外科 8,4%, 神経内科 5.8% の順に多かった。

•  内科疾患の内訳としては、生活習慣病が 28.3% と最も多く , 消化器疾患、自己免疫疾患がそれぞれ 16.2%, 循環器が 13.1%, 骨代謝疾患、内分泌疾患が 10.1 %であった。

•  具体的な診断名の内訳では、肥満症が 13 名、糖尿病が 8 名、高血圧症が 5 名、過敏性腸症候群が 10 名、線維筋痛症が 6 名、乳癌が 3 名、甲状腺乳頭癌が 2 名、その他、プロラクチン産生性下垂体腺腫 3 名、微小血管性などの狭心症が 7 名、シェーグレン症候群が 6 名などであった。また、慢性硬膜下血腫、末端肥大症、多発性転移性肺腫瘍等も診断された。

•  甲状腺自己抗体については、 72 名中抗 TPO 抗体或いは抗 TG 抗体は 26% で陽性であり、測定中 4 人に一人が橋本病と診断された。 low T3 症候群が 6.3% に見られた。

•  骨代謝については、骨塩定量を測定した 75 名中 33 %において腰椎、大腿骨、橈骨の少なくとも 1 箇所に骨密度の低下を認めた。また、骨代謝マーカーも異常値が多く見られ、 DPD/cre は、測定 38 名中 66 %で上昇していた。大部分のものは無症状であり、骨塩定量測定や骨代謝マーカー測定による骨粗鬆症の早期発見及び予防が急務であると思われた。

 

 D. 考察

女性専用外来において、更年期障害、精神神経疾患、及び器質的な疾患としては乳癌や甲状腺疾患、骨粗鬆症に対する対応が求められることが明らかになった。悪性腫瘍を診断されたものも少なくなかった。不定愁訴を訴える患者の中に重大な器質的疾患が存在することがわかった。これは女性外来という場で敷居が低くなり、これまで受診を躊躇していた患者にとっても受診しやすくなったことや、症状が多岐に渡り診断しにくい患者を時間をかけて診察することが出来るために診断が可能になったという理由が考えられる。このように、女性専用外来は、致命的になりうる重要な器質的疾患の診断治療のためにも有用であることが明らかになった。

 

2. 女性専用外来データファイリングシステムの開発と今後の研究について

<p> 

 A. 研究目的

性差医療の発展のためには、未だ確立されていない、様々な疾患や病態についての女性の健康上の問題点の日本におけるエビデンスの集積が不可欠である。広くその解析を行い、健康上の問題点を明らかにし、夫々の疾患に関する症状や病態の分析を行い、実態を調査することが、今後病態に応じた決め細やかな性差医療を行う上で極めて重要なことである。そこで、全国で統一したプログラムによって、日本におけるエビデンスを集積することを可能にするため、我々は、データファイリングプログラムを開発した。入力の形式を一定にすることにより、全国各施設での比較検討が可能となり、それに基づき女性の健康上の問題点をまとめ、女性外来における医療サービスの更なる発展につなげることが目的である。

 

 B. 研究方法

アクセスソフトを用いて、ファイリングシステムを更に変更し、病名の ICD 10におけるコード化、 Web 形式によるファイリングシステムの構築を行い、複数の医療者が同時に入力することを可能にした。各医療施設に試験的に配布し、問題点を整理し訂正した。

 

 C. 研究結果

アクセスソフトを用いて、ファイリングシステムを更に変更し、病名の ICD 10におけるコード化、 Web 形式によるファイリングシステムの構築を行い、複数の医療者が同時に入力することを可能にした。各医療施設に試験的に配布し、問題点を整理し訂正した。

 D. 結語

今後のデータファイリングの目標

各施設において倫理審査委員会で審査を通過した後、セキュリティを整えた上で、本システムを用いて全国の女性外来において多施設共同でエビデンスを構築する。

•  女性外来受診者の年齢、居住地、タバコ、アルコール等の嗜好、閉経年齢などの解析

•  女性外来受診者の疾患の解析:症状、既往歴、検査値、有効治療、副作用

•  女性外来受診者の転帰や他科紹介等に関しての解析

•  受診者の生活上の背景因子に関する解析

•  以上の結果を踏まえた女性医療における、エビデンスの構築、すなわち、症状と疾患との相関や、検査値の分布に関する解析、有効治療のガイドラインの構築。この中から新しい疾患概念が生み出されるものも複数存在するものと期待される。

 

3.更年期障害とエストロゲン受容体多型との相関に関する臨床研究の結果と今後の研究方針

 

 A. 研究目的

女性専用外来には更年期症候群の精査加療を目的としての受診者が全受診者の 27.3% と多くを占める。更年期症候群は卵巣機能の低下により引き起こされる種々の心身の不調である。しかし、更年期症状の強さや日常生活に対する影響は個人差が極めて大きい。そこで、更年期症候群の遺伝的背景を明らかにするため、更年期症状とエストロゲン受容体遺伝子多型(エストロゲン受容体 β の CA リピート多型)との相関について解析した。

 

 B. 研究方法

千葉県立東金病院女性専用外来を更年期症状を主訴に受診した女性 33 名及びコントロールとして一般外来を受診しており、更年期症状を殆ど経験していない女性 18 名について、症状についてのインタビュー調査を行い、 WAVE 法を用いて CA リピート数を解析し、症状とリピート数との相関について解析した。

更年期症状は、のぼせほてり等の自律神経症状、抑うつ・イライラ感などの精神神経症状、頭痛・肩こり等の筋・頭痛症状の 3 種に分類した。

 

 C. 研究結果

CA リピート数は 14 から 25 まで分布し、 18 のものが最も頻度が高かった。

CA リピート数は 3 種に分類した。 Extremely short(E):13<E<18, Short (S) : 17<S<22, Long (L): 21<L<26

ゲノタイプとしては、 EL, SS, SL, LL の 4 種類に分類された。

SL は最も頻度が多く、自律神経症状、精神神経症状が軽度であった。これに比較して、 SS, LL, EL では症状が認められるものが多かった。 SS では自律神経失調症状が認められる頻度が高く( odd's ratio(OR):7.0; 95% 信頼区間 (CI):1.25-39.15; P value (P)<0.05) 、精神神経症状が認められることも多かった( OR:13.0; CI:1.44-117; P<0.01 )。また、 EL でもホットフラッシュ (P<0.05) 、精神神経症状 (P<0.05) が多く認められた。

 

 D. 結語

更年期症状の有無或いは重症度と、エストロゲン受容体多型との関連性が初めて明らかになった。これは、更年期障害の早期診断や、予防、新しい治療法にも繋がる重要な発見であると考えられる。予め更年期症状に対して、予防的な治療を行うことによって、更年期症状の重症化を予防する可能性があり、著しい

生活の質( QOL )の低下を防ぐことができればその効果は大きく、オーダーメード医療の実践が可能になると思われる。今までの結果としては 51 例と少数での解析であるため、今後更に検体数を増やし、更年期症状の中の各症状ごとにデータの蓄積を重ねたいと考えている。

 

 

参考文献

•  竹尾愛理 天野惠子 川嶋裕子 柴田美奈子 大本由樹 花澤佳子 龍野一郎 齋藤 康 平井愛山 女性専用外来における器質的疾患及び内分泌検査についての検討 日本内科学会雑誌 第 93 巻 臨時増刊号 222,2004

•  Chikari Takeo, Etsuko Negishi, Aya Nakajima, Koichi Ueno, Ichiro Tatsuno, Yasushi Saito, Keiko Amano, and Aizan Hirai Association of Estrogen Receptor β gene Polymorphism with Menopausal Symptoms Gender Medicine, submit

 

図1女性専用外来受診者の疾患内訳

図2女性専用外来受診者器質的疾患内科疾患