1 )現状
女性外来担当医師のための漢方勉強会の必要性は従前より認識されていた。平成 14 年 12 月 15 日より天野恵子先生のご発案により、株式会社ツムラの協力を得て、女性外来担当医師のための漢方セミナーを発足させた。 2 〜 3 ヶ月に 1 回のペースで開催し、既に7回を数えている。開催日は日曜日で、 1 回約 5 時間の講義を行っている。当初より、継続して行う予定であったために、初心者向けの内容から始めて徐々にステップアップしていくという方法をとった。また、ひとつの内容についても、まずやさしい概念を学び、何回か後にもっと難しい概念を学習するという形をとって負担を少なくした。たとえば、気血水については始めにやるが、津と液の違い、栄気と衛気の違い等については数回後行うといった具合である。授業内容は女性外来に役立つことに特化して行っている。たとえば、月経関連の症状や更年期障害、不定愁訴などである。また最初に学習した内容を忘れてしまうことがあるため、時々復習をかねたまとめを行い、知識の脱落がないように努めた。この方針については、わかりやすく、復習があることで定着しやすいという評価が得られた。
しかし、継続とともに問題点も発生した。それは途中で新規参入者を迎えることがあるということである。現在、勉強会は回を重ねて、参加者のレベルも高くなっている。そのレベルに合わせて話すと、初回参加者はまったく理解できないということになってしまうのである。そこでこれに対しては講義開始時間を 1 時間早めて、初心者向けの漢方用語解説や基礎理念の理解のための講義を行うこととした。この講義には既にレベルの上がった受講者は参加しなくてもよいことになっている。あわせて、授業自体もスタートから時間を追うごとに徐々に難しくなっていくように構成した。そうすることで、レベルの高い先生方にも満足していただけるような内容にするよう、心がけている。
勉強会がかなり進んだこともあり、 9 月より週に 1 回ではあるが、私自身が千葉県内で女性外来を行い、女性外来担当医師の見学を受け入れ、実技指導に当たっている。漢方では舌診・脈診・腹診という医師の五感を用いた診察技術が重要であり、これは机上では身につきにくいものであるため、実習が必要になるのである。外来の見学は大学でも受け入れているが、こちらは普通の漢方外来であるため、女性専門外来のほうが実習先として望ましいという考えから開始した。現在は 2 名の先生を受け入れている。
2)将来
女性外来担当医師の教育は、必要性は認識されているものの、まだまだ普及していないのが現状である。千葉での勉強会の成功を受けて、全国でも同様の勉強会が開催されることが望ましいと考える。また、漢方の施設の数が少なく全国にあるわけではないため近隣にその施設がない、女性外来担当医師が多忙であるなどの理由で実技の習得が困難であることが多い。そこで一定期間、漢方の施設で研修できるシステムの構築なども必要であると考えられる。漢方を専門とする女性医師が女性外来を担当することもあるが、将来的には女性外来を担当する医師であれば誰でも一定のレベルで漢方薬を使えるようになることが望ましいと思われる。そのためには基準となる教科書やマニュアルの存在が不可欠であり、今後、その作成に力を入れていく予定である。
女性外来では、病気を診るというよりは、その女性ひとりを全体としてみる全人的医療の考え方が求められる。また心と体の両面に問題を抱える患者も多く来院するため、心身一如の医学が必要となってくる。ここで、個の医療であり、伝統の全人的医療である漢方医学が有力な助けになると考えられる。漢方薬による治療を行うことによって、西洋医学のみであったときには治療し得なかった症状を治療することができるだけではなく、人間を全体として捉え、バランスの崩れたところを元に戻して健康体へと戻していくという理念そのものが、女性外来では診療の一助になると考えられる。現実に女性外来を担当する医師達の漢方を学びたいという意欲は高く、そのことからも漢方の必要性は明らかである。
実際に漢方の診療技術を習得するということになると、系統立てて勉強した上で、外来診療に陪席し、そのなかで実技も学んでいくことが望ましい。しかしながら、もともと一対一の師弟関係の中で伝えられてきた漢方では系統講義のはっきりとした指針がいまだに明確でない部分があることと(これについては学会が教科書の作成などを行っているが、女性外来に向けたものではない)、漢方の研修施設の数や女性外来担当医師のスケジュールの問題等で、現実には様々な障害がある。しかし、現在までの女性外来担当医師のための勉強会はかなり大きな成功をおさめ、成果を挙げてきた。今後は更なる発展をめざして努力したい。女性外来において、漢方は有力な武器となりうる領域である。すべての女性外来担当医師が一定以上のレベルで適切に漢方薬を使えるようになることが、よりよい医療を提供することにつながると考える。