平成16年度厚生労働科学研究費補助金 子ども家庭総合研究事業

 

U-(8)  高齢者の生活実態調査に関する性差

 

分担研究者  太田壽城   国立長寿医療センター

研究協力者  西川美名子  国立長寿医療センター

研究要旨

高齢者の生活実態調査を、性別、年齢別に比較検討し、高齢者の生活への満足度、社会への貢献度、自立などを考える上で性差について考えた。対象者は静岡県内の平成 11年(1999年)10月1日現在65−84歳の高齢者22040人で、回収率は64.5%(14182人)であった。ほとんどの項目で性差がみられた。また年齢を前期高齢者、後期高齢者と分類したところ、男性の後期高齢者が平均寿命の前後の集団であり、女性の後期高齢者が平均寿命前の集団であるにもかかわらず、男性の後期高齢者は生活に満足しており自分が健康で体調がよくて将来に希望をもち、一人で外出できる割合(77.9%)が女性の後期高齢者の割合(59.4%)より有意に高かった。このことは、女性の平均寿命が長いといっても、平均寿命前から既に一人で外出できる割合が低くなり、決して元気で活動的な生活を送っているわけではないこと、また平均寿命を超えた男性は、なお一人で歩くことができて、元気な人が多いことを示唆している。今後は、さらに縦断研究を行って検討を加える予定である。

A. 研究目的

高齢者の活動度、生活満足度、および生活習慣を、性別による違いおよび年齢による違いに着目して把握、検討した。

B. 研究方法

対象者は、平成11年( 1999年)に「高齢者生活実態調査票」に 回答した 22040人であった。調査票を送付した22040人のうち、調査票が回収できた者は14182人(64.5%)で、 内訳は、男性 7145人(前期高齢者3566人、後期高齢者3579人)、女性6867人(前期高齢者3536人、後期高齢者3331人)であった。また有意差検定は1%の危険率でカイ二乗検定を用いた。

これらの対象に、郵送留置法により実施し郵送により回収した。調査の内容は生活満足度、身体および日常生活機能、ライフスタイル、経済状況、社会活動、疾病および障害、健康管理の項目であった。また調査にあたっては、主旨を文書にて説明し、守秘義務の遵守をうたった。データの取り扱いに関しては、個人名が同定できないように氏名を ID番号に替えて分析した。


C. 研究成果

調査は、対象者の概要に始まり、治療状況、移動状況、視覚・聴覚・歯の障害による生活への影響、健康診断の状況、健康に関する相談者、健康情報、生活への満足度、人間関係、社会活動、経済、生活、睡眠、運動、食事、飲酒、喫煙の各項目について行った。結果は表のようであった。

•  ほとんどすべての項目で性差が見られ、「お金の蓄えがあると感じている」、「野菜を1日に 3回以上摂取する」という項目にのみ性差が見られなかった。

•  移動状況では、一人で外出できる男性の 前期高齢者が 90.6%、後期高齢者が77.9%であるのに比べ、女性の前期高齢者が86.6%、後期高齢者が59.4%であった。性差は歴然で、男性の後期高齢者は、男性の平均寿命である78.36歳から考えると平均寿命前後の集団であり、一方女性の後期高齢者は、女性の平均寿命である85.23歳から考えると平均寿命前の集団と言える。つまり男性は、平均寿命を超えてもなお元気で一人で出かけることができるのに、女性では平均寿命を越えないうちから歩けなくなってしまう人が男性より多いと考えられる。一方一日中臥床は、男性の前期高齢者で1.7%、後期高齢者で5.5%、また女性では前期高齢者で1.3%、後期高齢者で5.2%といずれも性別、年齢による違いが見られた。

•  視覚障害が生活に影響するものは、男性で 8.6%、女性で9.6%であった。聴覚障害が生活に影響するものは、男性で10.6%、女性で8.0%であった。また歯の障害が生活に影響するものは、男性で15.0%、女性で13.1%であった。

•  生活への満足度については、男性の満足度が大きかった。自分は健康で、体調がよく、気分もいいし将来の夢や希望をもっている人が女性より多かった。

•  人間関係は、男性が長年勤めで社会に出ていたためか、近所や周りの人との関係は女性の方が満足していた。

•  男性の後期高齢者の 60.7%が、家事をしており、これは女性のそれと同率であった。ただ買い物や食事の支度、身の周りのことは女性に依存してきたためか男性は苦手であり、趣味をもつという点では女性より男性が高かった。

•  睡眠障害を訴える女性は男性より多く、服薬をしている男性が 9.3%であるのに比べて、女性は15.2%であった。

•  飲酒や喫煙は、男性のこれまでの生活を反映し、後期高齢者について比較すると毎日飲酒する男性は 27.9%、女性の2.3%の10倍以上である。また現在の喫煙についても同様に、後期高齢者について比較すると男性が23.7%、女性の2.3%の10倍であった。

D. 考察

今回の調査では、性別による違い、年齢による違いに着目した。これまでの研究では、このような性差を考慮した研究は皆無であった。平均寿命は、今や女性が 85.33歳、男性は78.36歳で、女性における伸びが大きい。(厚生労働省大臣官房統計情報部人口動態;H15年)しかし男性に比べて、女性は健康寿命という点では、不健康な期間が長く、これは女性の筋骨格系の虚弱化が男性に比べて著しく進行するためで生物学的性差と思われる。(鈴木、老年医学と性差;2003、Vol.41-6)今回、男性と女性の後期高齢者を比較する場合、それはまさに平均寿命というハードルを考えれば、ハードルを超えた男性とまだハードルを超えていない女性を比較していることになり、いかに女性が不健康な生活を長く送っているかが予想される。また、老年期は、生きる目的を奪われ、死に直面しつつ生きることの目的を考えさせられる、いわば衰退、喪失の時期である。この不安感は男性に比べて女性が高く、寂しさを感じ、無力感、気分の落ち込みも多かった。さらに男性が趣味をもって老後の生活を元気に生きているのに比し、女性は、自ら身体的な支障がみられてもなお家事全般を背負うことが多く、不定愁訴、睡眠障害に悩まされている人も多かった。これらは男性が社会に出て、女性は家庭を守るという社会的性差を反映していた生活習慣の結果と思われた。

 

E. 結論

高齢者の生活への満足度は女性より男性が高く、男性が平均寿命を超えてもなお元気な生活を送っている一方、女性は平均寿命を超える前から不健康な生活が始まる人が多い。今後縦断研究によってさらなる検討を加えたい。

F. 健康危惧情報

なし

G. 研究発

(論文発表)

•  Jian-Guo Z., Ishikawa T., Yamazaki

H.,Ohta T. Is a Type A behavior

pattern associated with falling among the community-dwelling elderly?. Archives of Gerontology and Geriatrics. 38 (2004)145-152

•  Tajima O., Nagura E., Ishikawa-Takata

K., Ohta T., Two new potent and

convenient predictors of mortality in older nursing home residents in Japan ,Geriatirics and Gerontology International 2004; 4: 77-83

•  Tajima O., Nagura E., Ishikawa-Takata

K., Furumoto S., Ohta T.,

Nutritional assessment of elderly Japanese nursing home residents of

differing mobility using anthropometric measurements, Biochemical indicators and food intake. Geriatrics and Gerontology International 2004; 93-99

4 . Harada A, Matsui Y, Mizuno M, Tokuda H, Niino N,Ohta T, Japanese orthopedists' interests in prevention of fractures in the elderly from falls, Osteoporos Int (2004) 15: 560-566

•  鷲見、太田、「痴呆疾患に関する医療経済的検討」 日本老年医学会雑誌、41巻5号( 2004 ; 9 )

(学会発表)

なし

H. 知的財産権の出願・登録状況

•  特許取得:なし

•  実用新案登録:なし

•  その他:なし