平成17年度厚生労働科学研究費補助金 子ども家庭総合研究事業

       

 平成17年度総括研究報告書

性差を加味した女性健康支援のための科学的根拠の構築と
女性外来の確立

主任研究者 天野恵子 千葉県衛生研究所 所長

 

研究要旨

平成17年度も、日本女性におけるより良い医療の確立を目指し、エビデンスの構築と、医学教育・研究への性差の視点の導入の促進、女性医療を支える医師・コメデイカルの育成、医療・保健の現場と市民への啓発活動を目的として、下記の如き多面的な活動を展開した。

@ 女性専用外来における全血セロトニン値の重要性について
A 循環器内科系専門医のストレスと健康に関するアンケート調査
B 女性外来利用者を中心とした市民による性差医療の啓発・普及を目指した女性外来・性差医療を育てる会(いちごの会)の設立
C 薬物動態の性差に応じた薬物療法の最適化に関する研究(千葉県立東金病院女性総合診療科の処方実態に関する調査研究ならびに更年期障害に対する処方薬剤とエストロゲンβ受容体CAリピート多型との相関に関する研究
D 高齢者の自立度低下要因に関する性差研究
E 不妊を主訴とする女性患者と男性患者の心理特性の性差研究
F 循環器病危険因子の性差に関する研究
G 性差を加味した女性健康支援のためのIT環境の構築
H 千葉県における女性の健康支援の取り組み
I 女性外来実態調査
J 女性の健康とアジアの伝統医療

一方で、性差医療・医学研究会による学会活動、月刊誌「性差と医療」による情報発信、性差医療情報ネットワークによるセミナーの開催等を通じて、医学教育・研究への性差の視点の浸透、性差に基く女性医療を支える人材の育成を行っている。その結果、2006年1月現在、47都道府県全てで女性外来が立ち上げられ、更にその数は増えつつあり、今後は質の向上が急務であると考えられる。千葉県ならびに千葉県立東金病院における取り組みが、他県の女性医療の取り組みのモデルケースとなることを目指し、活動・研究を展開しているが、その効果は徐々に医科大学における女性外来の設立という形となって現れている。

 

分担研究者

上野 光一  千葉大学大学院薬学研究院教授
太田 壽城  国立長寿医療センター病院長
名取 道也  国立成育医療センター副院長
吉政 康直  国立循環器病センター内科部長

 

A. 研究目的

平成14年度から16年度の厚生労働科学研究事業において、性差を考慮した女性医療の普及とそのよりよいあり方について研究・活動を続けてきた。その結果、2006年1月現在では全国47都道府県に450を超える性差を考慮した女性医療を提供する医療機関が誕生した。43の医科大学付属病院での女性外来の開設も確認された。しかし、現場で提供されている医療サービスを見たとき、開業医が自分の専門性を生かし、その中に性差の視点を取り込んで開設している機関、積極的に性差の視点を取り込んで新しい医療を展開しようとしている大学、男女共同参画社会を念頭に置いた活動を模索する社会保険、労災保険病院での取り組みにおいては、担当女性医師の性差医療に関する理解も深まり、また当該医療機関における他のスタッフの理解も進み、徐々にではあるが良い方向へとかたちを整えつつあるのに対し、議会からの要請に基づき病院長からのトップダウンで設立された県立、市町村立病院における女性外来は、多くが相談業務のみの振り分け外来であり、担当する医師・受診する患者ともその中途半端なあり方に失望しているのが現状である。本研究は、日本におけるよりよい女性医療の確立のために、日本女性におけるエビデンスの構築と、性差を考慮した女性医療の普及のための医学教育・研究への性差の視点導入の促進、女性医療を支える医師・コメデイカルの育成、医療・保健の現場と市民への啓発活動を目的として多面的な活動を展開している。

 

B. 研究方法

1. 女性専用外来における全血セロトニン値の重要性についての研究:2003年10月から2005年4月までに千葉県立東金病院女性外来を受診し、天野による診察を受けた連続147名において、全血法によるセロトニン測定を行い、疾患別の解析を行った。

2. 循環器内科系専門医のストレスと健康に関するアンケート調査:2004年度に、日本循環器学会に所属する循環器専門医男女(男性4743名、女性461名)ならびに日本糖尿病学会所属の糖尿病女性専門医(443名)に対して郵送法によるストレスと健康に関するアンケート調査を行い、性差ならびに職種による差について検討した。

3. 女性外来利用者を中心とした市民による性差医療の啓発・普及を目指した女性外来・性差医療を育てる会(いちごの会)の設立:千葉県立東金病院の女性外来受診者を対象とした患者の会を立ち上げた。

4. 薬物動態の性差に応じた薬物療法の最適化に関する研究
a. 千葉県立東金病院女性総合診
b. 療科の処方実態に関する調査研究:千葉県立東金病院における女性専門外来の2001年9月から2005年3月までの処方実態を解析し、処方薬の把握とともに、女性外来における医薬品適正使用、性差医療への薬剤師のかかわり方について検討した。
c. 更年期障害に対する処方薬剤とエストロゲンβ受容体CAリピート多型との相関に関する研究:千葉県立東金病院における更年期障害患者63名に対し、薬物療法の効果と遺伝子の多型性についての検討を行った。

5. 高齢者の自立度低下要因に関する性差研究:平成11年の調査時にランダムに抽出され有効回答をした、静岡県内74市町村に在住する高齢者14012人(有効回答数11,506人)について平成14年に再調査を行った。調査結果を性別に検討し、高齢者における自立低下のリスクについて解析した。内訳は、男性5751人(前期高齢者3336人、後期高齢者2415人)、女性5755人(前期高齢者3362人、後期高齢者2393人)であった。自立低下のリスクはロジステイック回帰で計算しオッズ比を求めた。

6. 不妊を主訴とする女性患者と男性患者の心理特性の性差研究:不妊を主訴として医療機関を受診した女性患者30例と男性患者46名の心理特性における性差について不安・抑うつについてはHADS,QOLについてはSF-36を用いて解析した。
7. 循環器病危険因子の性差に関する研究:国立循環器病医療センターを受診した糖尿病患者158名に対し、糖脂質代謝マーカー等の測定を行い、メタボリックシンドローム合併糖尿病の病態の性差について解析した。

8. 性差を加味した女性健康支援のためのIT環境の構築:今年度は女性外来における治療介入の効果を解析するための環境を整えると同時に、データファイリングシステムの運用開始をした。

9. 千葉県における女性の健康支援の取り組み:平成17年度に千葉県において行われた女性の健康支援事業の結果について分析した。また、全国知事会において、性差に基づく健康課題を明らかにするとともに、女性が生涯を通じた良質な保健医療サービスを得るために必要な女性医療の研究や体制整備の充実を検討する基礎データを収集する目的で、各都道府県を対象に「女性の健康支援に係る調査」を平成16年5月に実施した結果を分析した。

10. 女性外来実態調査:2006年1月現在の女性外来設立医療機関を製薬会社の営業担当者の協力を得て、調査した。

11. 女性の健康とアジアの伝統医療:2005年8月23−25日にマレーシアの首都クアラルンプールのクアラルンプール・コンベンションセンターにて「女性のための包括的な健康支援の推進(Promoting Complete Healthcare for Women)」を目指して開催された 『女性の健康とアジアの伝統医療 (Women’s Health and Traditional Medicine: WHAT Medicine) 』 第一回国際会議へ参加、1/女性の更年期障害の伝統医療による治療の海外における現状の把握、および 2/西洋医学と伝統医療が相互に排他的であるのか、あるいは両立、併用が有効であるのか、という命題に関する情報収集を実施し、それらの結果を報告書としてまとめ、女性専用外来の担当医師に向けて発信した。


C. 研究結果

1.女性専用外来における全血セロトニン値の重要性についての研究

大うつ病性障害、線維筋痛症等、セロトニンの異常をきたすと考えられる疾患において全血法測定によるセロトニン値が診断ならびに経過観察指標として有用か否かを検討した結果、以下の知見が得られた。

@ 全血法によるセロトニン値と疾患との間に関連性があることが示唆された。代表疾患としては大うつ病性障害、気分変調性障害、線維筋痛症、セロトニン減少によると思われる病態が確認された。
A 他に病因の説明がつかない不定愁訴患者、子どもへの虐待を制止することのできない母親、著明な身体症状を伴う身体表現性障害患者においてもセロトニンが極端に低値であったことからSSRI,SNRIによる治療を行ったところ、良好な結果を得た。このような症状の原因としてセロトニンの低下が考えられ、このような症例群を「セロトニン減少症候群」と呼ぶことを提案したい。
B 更年期症状の一つとして、抑うつ症状を呈する症例があるが、そのような症例では大うつ病性障害、気分変調性障害と異なり、セロトニン値の低下を見ない。
C 他院にてSSRI,SNRIを投与され、セロトニン症候群をきたした症例では、セロトニン値が正常高値であることが確認された。
D SSRI,SNRIなどセロトニン再取り込みブロック剤は、脳のBlood-brain barrierにおけるトランスポーターをもブロックするため、SSRI,SNRI使用中はセロトニン値は低下する。
今回得られた知見については、追試による更なる検討が必要であるが、女性外来で遭遇する疾患における症状の発現にセロトニンの低下が極めて密接に関与している可能性がある。

2.循環器内科系専門医のストレスと健康に関するアンケート調査

本研究では、循環器ならびに糖尿病専門医を一つの職域集団とみなした場合の健康に影響する環境や、生活習慣、ストレス予防について実態を把握し、その性差の有無、女性医師の専門の違いによる差を検討した。その結果、男女とも勤務医と開業医の間では働き方、ストレスなどに大きな違いがあり、勤務医男性は夜間勤務が多く、勤務時間も長い。

a.QOLの男女別の比較
SF36によるQOLは、身体機能(PF)、日常役割機能(RP)、体の痛み(BP)、全体的健康感(GH)、活力(VT)、社会生活機能(SF)、日常生活機能(RE)、心の健康(MH)の8つの下位概念の平均点(標準偏差)を男女別にみると、身体機能は男性が女性よりも有意に得点が高く、全体的健康感、心の健康は男性よりも女性の方が有意に得点が高かった。日本国民の標準値(50点)との比較では、男性では身体機能以外の全ての下位概念の偏差スコアが標準値より有意に低く、女性では身体機能スコアは標準値よりも有意に高かったが、活力、社会生活機能、心の健康スコアは標準値よりも有意に低かった。8つの下位概念を、身体機能の健康と精神機能の健康の2側面に分けたサマリースコアの値は、男性は身体機能が49.6(8.6)点、精神機能が44.8(11.4)点、女性は身体機能が50.6(8.7)点、精神機能が46.1(10.5)点であった。身体機能、精神機能ともサマリースコアに男女差はなかったが、男女ともに精神的健康スコアが日本国民標準値よりも有意に低かった。女性医師については、所属学会で比較をしたが、8つの下位概念、サマリースコアに有意差はなかった。

b.性・勤務形態別の比較
男性についてSF-36の下位概念得点、サマリースコアを開業医・勤務医で比較すると、活力、社会生活機能、心の健康得点は開業医よりも勤務医の方が有意に低かった。また、サマリースコアでは、身体的健康スコアは開業医と勤務医に差はなかったが、精神的健康スコアは勤務医の方が有意に低かった。女性については、開業医・勤務医で比較すると、開業医と勤務医の得点差は日常役割機能(身体)で有意であり、社会生活機能でも差のある傾向がみられた。サマリースコアでは、身体的健康スコア、精神的健康スコアとも差はなかった。開業医について男女でSF-36下位概念得点とサマリースコアを比較したところ、下位概念、サマリースコアともに有意差はなかった。一方、勤務医では日常役割機能(身体)、全体的健康感、心の健康について男女差がみられ、日常役割機能(身体)は男性、全体的健康感と心の健康は女性で得点が高かった。 

3.女性外来利用者を中心とした市民による性差医療の啓発・普及を目指した女性外来・性差医療を育てる会(いちごの会)の設立

平成17年3月に千葉県立東金病院女性外来受診者に患者の会の設立構想を持ちかけ、設立準備会を立ち上げた。10月末の設立総会までの準備会への参加者は95名であった。その後、月1回の例会を重ね、10月に正式に女性外来・性差医療を育てる会(いちごの会)を設立した。設立時の会員数は30名であった。

4.薬物動態の性差に応じた薬物療法の最適化に関する研究

A.千葉県立東金病院女性総合診療科の処方実態に関する調査研究:当該機関の処方箋枚数は8,730枚であり、1ヶ月平均約300枚、処方箋1枚あたりの平均薬剤処方数は3.14剤であった。また、総薬剤処方数は27,447件であり、年々増加傾向であった。年齢別の薬剤処方数は、45〜54歳が9,562件(35%)と最も多く、次いで55〜64歳の6,743件(25%)、35〜44歳の3,333件(12%)であった。処方された薬剤は、漢方製剤、中枢神経系用剤、消化器官用剤、循環器官用剤、ホルモン剤の順番で、処方が多い結果となった。漢方製剤は、加味逍遙散の処方が最も多く、次いで半夏厚朴湯、当帰芍薬散、桂枝茯苓丸の順となっていた。また、漢方製剤の処方数を各年代の薬剤処方数で割り、年代ごとの割合を求めたところ、20歳代から60歳代までの広い年齢層に使用されていることが明らかとなった。中枢神経系用剤は全処方の20%を占めており、精神神経用剤と催眠鎮静剤・抗不安剤が大部分を占める結果となった。年代ごとの処方割合はあまり変化がなかった。中枢神経系用剤で薬剤処方数150件以上の薬剤は、セロトニン選択的取り込み阻害剤(SSRI)やベンゾジアゼピン系薬剤などが挙げられた。薬剤処方が3番目に多かった消化器官用剤は、消化性潰瘍剤が半数を占め、処方割合は年齢と共に増加する傾向であった。循環器官用剤では、血管拡張剤と高脂血症用剤が多く、処方割合は高齢になるほど増加していた。ホルモン剤は、ほぼ7割が卵胞ホルモン剤・黄体ホルモン剤であった。45〜54歳で処方件数、処方割合とも最も多かった。

B.更年期障害に対する処方薬剤とエストロゲンβ受容体CAリピート多型との相関に関する研究: 対象者のCAリピートgenotypeは、SS genotypeが29名と最も多く、次いでSL genotypeが19名、LL genotypeは15名であった。漢方製剤の処方率は、SS genotypeの者が75.9%、SL genotypeでは89.5%、LL genotypeでは86.7%と全てのgenotypeにおいて高い割合であった。一方、中枢神経系用剤およびホルモン剤では処方率は漢方に比べて高くないものの、SS genotype、SL genotype、LL genotypeの順に割合が低くなる傾向がみられた。また、漢方製剤単独療法と他の薬剤との併用療法の割合の検討では、SS genotypeが2.14、SL genotypeが1.43、LL genotypeが0.86とSS genotypeはLL genotypeの2.5倍も併用している者が多いという結果が得られた。漢方製剤が処方されている者のうち、更年期障害治療の使用頻度の高い代表的な3つの漢方製剤(3大漢方処方)である加味逍遥散、桂枝茯苓丸、当帰芍薬散とその他の漢方製剤とに分けて行った解析では、3大漢方処方の処方率がSS genotypeの者は72.7%、SL genotypeでは47.1%、LL genotypeでは38.5%とSS genotype、SL genotype、LL genotypeの順に割合が低くなり、SS genotypeはLL genotypeに比べて処方率が有意に高いことが示された。なかでも、桂枝茯苓丸の処方率はSS genotypeの者は31.8%であるのに対して、他のgenotypeの者は10.0%とSS genotypeで有意に高かった。

5.高齢者の自立度低下要因に関する性差研究

@一人で外出できる人で、平成14年度に新規発症した疾病においては、女性高齢者に比べ男性高齢者は高血圧がトップで次いで関節や筋肉の病気が多く、肺や気管支の病気、癌、糖尿病は女性より高率であった。一方女性高齢者の特徴は、関節や筋肉の病気がトップで骨折も男性より高率であった。
A活動度、自立度を著明に低下させる疾病のリスクは、男女とも脳卒中が高かった。ついで骨折、癌、と同じように続くが、男性高齢者は肺や気管支の病気、心臓病が高く、関節や筋肉の病気が上位にみられる女性高齢者とでは異なった特徴である。

6.不妊を主訴とする女性患者と男性患者の心理特性の性差

男性不妊外来受診者で問診表から有効な回答が得られた症例は46名。8名がEDを主訴とし、38名は不妊を主訴とする患者であった。受診者の年齢分布は24歳〜48歳(36.2±6.1歳)であり、35〜40歳の受診者が最も多かった。すでにこどもを持つ患者は4名でうち3名はEDを主訴として来院。対照とした女性不妊患者の年齢は34.7±7.63歳であり差を認めない。初診時のHADSを解析し、男性不妊外来受診者の不安と抑うつを検討した結果は、不安スコアは7.1±3.5、抑うつスコアは3.4±0.4、HADS(総スコア)は11.7±6.4であった。一方、女性不妊患者では不安スコアは6.3±3.7、抑うつスコアは5.8±3.8、HADSは12.3±7.3であった。不安スコア及び総スコアでは差を認めず、抑うつスコアは女性不妊群で有意に高かった。SF36によるQOLは、身体機能(PF)、日常役割機能(RP)、体の痛み(BP)、全体的健康感(GH)、活力(VT)、社会生活機能(SF)、日常生活機能(RE)、心の健康(MH)の8項目のうち、男性と女性で有意な差を認めたものは日常役割機能、体の痛み、全体的健康感、社会生活機能の4項目で、全て女性不妊患者が男性患者と比較して低い得点であった。国民標準値との比較では、男性患者においては、心の健康項目が低値を示した以外は標準値と差がなかった。一方女性患者においては、特に日常役割機能において身体面でも、精神面でも低い値を示した。

7.循環器病危険因子の性差に関する研究

男女ともメタボリックシンドローム合併群では明らかなBMIの高値、レプチンの高値とアディポネクチンの低下傾向を認めた。また、血中中性脂肪の高値、HDL-Cの低値を認めた。男性においてメタボリックシンドローム合併糖尿病患者は非合併患者に比しHOMA-IRの有意な上昇(2.22±0.16 vs. 1.41±0.10)、高感度CRPの高値(1162±199 vs. 668±96, p < 0.02)が認められたのに対し、女性では同様の傾向は認めるものの有意な差異は認められなかった(HOMA-IR; 2.55±0.31 vs. 2.17±0.28, 高感度CRP; 1536±290 vs. 1014±258)。次にレプチン、アディポネクチンの2つのアディポサイトカインが糖尿病患者の糖脂質代謝に与える影響を検討するためこれらのアディポサイトカインと糖脂質代謝マーカーの相関を男女別に解析した。インスリン抵抗性の指標であるSSPG、HOMA-IRはレプチンと男女とも有意な正の相関を認めたのに対し、アディポネクチンとは男性でのみ有意な負の相関を示した(男性r = -0.400, p < 0.05, 女性r = -0.32, p = 0.057)。

8.性差を加味した女性健康支援のためのIT環境の構築

データファイリングシステムは、医師が診療情報を登録する女性外来データファイリングと、患者自身が問診を登録する女性外来対応自己問診票から構成されるWebシステムである。女性外来データファイリングは、これまでの臨床経験に基づいた女性特有の症状・疾患・背景因子などの診療情報を細分化したテンプレートを生成し、大分類からその詳細な項目をポップアップリストより各項目を一度に選択することによって、入力が簡便に行うことができる。診療情報や施設情報のコード化と施設毎に重複しないような固有の患者IDにて管理されるデータベースの構造にて、データを出力する機能を有し、統計解析を視野に入れ、二次利用できるように設計されている。出力されたデータには患者を特定する情報を排除し、個人情報の保護にも考慮した。また、症状、診断、治療などの細目に関しては、実際の診療現場においても参考にできるものになっている。女性外来対応自己問診票は、医師の治療的介入の判断を支援することが目的であり、女性外来受診患者の治療経過の評価尺度が、患者自身の自己問診により、客観的なスコアを解析することができる。評価指標としては健康管理面の指標 SF-36(HRQOL)、精神面の指標SRQ-D(うつ病)およびSTAI(不安)の3種を適用した。とくにSF-36は、8種類のカテゴリから分析することにより患者の健康状態が細かく把握することができ、十分な顧客満足度も得られる。問診票にはタッチパネル液晶端末を用いり、質問を1問ごとに見やすく表示し、回答する選択肢を触れると次画面に進める簡便な操作方法であり、高齢者でも負担を軽減させるよう考慮した。

9.千葉県における女性の健康支援の取り組み

平成16年度に全国知事会で行った調査では、

@性差を踏まえたきめ細かな保健医療施策を推進するための女性の健康支援に係る取組み状況は、県としての女性専用外来開設が17都道府県、医療従事者研修会の開催が21都道府県、健康相談の実施が33都道府県、その他健康課題に応じた取組みが46都道府県であった。
A女性の生涯を通じた健康課題に応じた総事業数は388事業であり、このうち県単独事業は151事業となっている。
B平成15年度の健康相談事業の延相談件数は24,729人であり、その主訴別の状況は思春期に関するものが最も多く27.7%、メンタルケアが20.8%、不妊に関するもの11.0%、更年期症状が3.9%となっている。
C女性専用外来を設置している都道府県における女性専用外来の概念・方針の主なものは

ア 女性の生涯を通じた健康づくり
イ 特性に応じた総合的な医療を提供
ウ 女性に対し医療サービスの選択幅を広げる。
エ 女性医師が女性患者の相談を受けて適切な診療を行う。
オ 性差を重視して、女性特有の疾患を精査加療する。
等であった。

D女性専用外来促進に係る課題や意見等については、

ア 女性医師の確保が困難なこと。
イ 診療報酬では採算が取れないと考えること。
ウ ニーズの把握や優先順位の検証が必要である。

等であった。

10. 女性外来実態調査

2006年1月現在の女性外来設立数は356施設。医科大学付属病院が43、国公立病院が119、社会保険・労災病院関連施設が23、私立病院が171となっている。

11.女性の健康とアジアの伝統医療

@女性の更年期障害の伝統医療による治療の海外における現状については、日本の漢方を含むアジアの伝統薬草医療が更年期障害の治療に効果を上げており、HRTに代わる治療法を模索する欧米の医師や患者に大いなる恩恵をもたらす可能性があることが示唆された。
A西洋医学と伝統医療は相反するものではなく、二つを組み合わせた治療を行うことにより、伝統医療あるいは西洋医学単独での治療より高い治療効果を上げることができる、ということが判明した。しかしアジアの伝統医療が世界的に認識され、受け入られるためには科学的な評価が不可欠である。

 

D. 考察

1.女性専用外来における全血セロトニン値の重要性について

線維筋痛症患者の診断と治療に全血法によるセロトニン値測定が活用できないかとの検討を行った。セロトニンは神経伝達物質としてトリプトファンを原料として合成され、セロトニン神経は縫線核、前頭葉皮質、基底核、大脳辺縁系などに位置し、気分や不安、食欲や睡眠などさまざまな機能に関与しており、うつ病などで低下していると言われる。

一方、近年、本邦でも圧倒的に女性に多く見られ、広い範囲での慢性疼痛を訴える線維筋痛症の存在が認識され始めたが、其の診断は1990年に米国リウマチ学会によって提示された分類基準にのっとり「広範囲な疼痛が3ケ月以上継続し、特異な18ケ所の圧痛点の中11ケ所以上で疼痛を認めるとき」線維筋痛症とすると非常に曖昧である。検査所見は時にCPKが高値を示すことがあるが、ほかに特異的な検査所見は無い。本症の真の病因は不明であるが、痛みのメカニズムとして、セロトニンの関与が示唆されており、脊髄中のセロトニンの低下が見られるとの報告があり、実際に治療の上ではSSRI、SNRIが非常に有効な症例が多い。

しかし、セロトニンについては、従来「5HTは末梢に其の大半が存在し、血液、あるいは尿中の5HT量を測定することにより末梢5HTの動態および病態を知ることができるが、脳血液関門を通過できないので脳機能は末梢5HTの影響をほとんど受けない。それゆえ、中枢5HTの変動を知るためには、血中および尿中5HTの測定だけでなく、脳脊髄中の5HTおよびその代謝物5HIAAの測定が必要である」との記載があり、脊髄液での測定をせずには正確な効果判定を行いがたいと当初は考えた。

ところが、検索を続ける中で、2002年に東北大学のwakayamaらにより脳におけるBlood Brain Barrierにセロトニントランスポーターが存在することが報告され、東邦大学の有田らがセロトニンを産生しうる臓器としての消化管ならびに肝臓と腎臓を摘除した動物の研究から、脳で産生されたセロトニンが血液中に放出されることを確認していることを知ったことから、女性外来受診連続147例でのセロトニン全血測定を行った。その結果全血法によるセロトニン値と疾患との間に関連性があることが示唆された。セロトニン低値を示す代表疾患としては大うつ病性障害、気分変調性障害、線維筋痛症、セロトニン減少によると思われる病態が確認された。

また、他に病因の説明がつかない不定愁訴患者、子どもへの虐待を制止することのできない母親、著明な身体症状を伴う身体表現性障害患者においてもセロトニンが極端に低値であり、SSRI,SNRIによる治療により、良好な結果を得たことから、このような症状の起因としてセロトニンの低下が存在すると考えられ、このような症例群を「セロトニン減少症候群」と呼ぶことを提案したい。

一方、更年期症状の一つとして、時として抑うつ症状を呈する症例があるが、このような症例では大うつ病性障害、気分変調性障害と異なり、セロトニン値の低下を見ないことより、診断の際の鑑別法としてセロトニン値が有用と考えられる。また、他院にてSSRI,SNRIを投与され、セロトニン症候群をきたした症例では、セロトニン値が正常高値であることが確認されたことより、治療の際のSSRI,SNRIの使用に際して、セロトニン値の測定がこれらの薬剤による好ましくない副作用の防止に役立つと考えられる。今回得られた知見については、追試による更なる検討が必要であるが、女性外来で遭遇する疾患における症状の発現にセロトニンの低下が極めて密接に関与している可能性がある。

2.循環器内科系専門医のストレスと健康に関するアンケート調査

2004年度に行った日本循環器学会所属の循環器専門医におけるストレスと健康に関する調査の解析を終えた。これらの結果から、循環器系専門医を一つの職域集団とみなした場合、男女で比較をすると身体機能、全体的健康感は男性が女性よりも有意に高く、心の健康は女性の方が有意に高かった。すなわち、身体的健康面では女性の方が、精神的健康面では男性の方が健康状態は悪かった。その背景には、女性は家事等との両立などによる睡眠不足、勤務時間が長いなどが身体的健康に影響している事が考えられた。

一方、男性はきまじめな性格傾向があり、職場のストレスなどを多く感じている事や、交友や社会的活動などが女性より少なくストレスの解消が図れていないことが精神的健康面に影響をしている事が考えられた。その結果、女性に比べて男性の方が、将来や現在の状況に対して、ネガティブに捉える傾向がみられた。勤務形態も健康状態に影響しており、勤務医の方が開業医よりもストレスが多い傾向がみられ、特に男性ではその傾向が強かった。勤務医男性では夜間勤務が多く、勤務時間も長い。生活時間についても、開業医の方が勤務医よりも家族との時間や運動時間を取ることができており、勤務医の方が仕事中心の生活になっていることが窺われた。

循環器系専門医全体の自覚的健康状態は国民の標準よりは低く、中でも男性の精神的健康状態の改善や女性の身体的健康度の改善は1つの課題であり、職場環境や各自の働き方を見直すことも必要だろうと考えられた。

3.女性外来利用者を中心とした市民による性差医療の啓発・普及を目指した女性外来・性差医療を育てる会(いちごの会)の設立

設立過程で以下のような課題が明らかになった。
a.設立賛同者の会員への歩留り:多くの市民団体は、同じ目的に賛同した者が中心となり会の設立を発案し、意見交換を重ねて会を設立していく経緯を辿る。したがって、設立準備会に名を連ねた者は、そのまま正式に会が発足した時の会員となるのが通常である。しかし、本会の場合、8回行った設立準備会に1回以上参加した者は20名弱、設立に賛同した者の中で正式発足時の会員になった者は半数以下であった。準備会への出席率が低かったのは、会の趣旨に賛同するが自分は積極的には関われないという者が多かった結果と思われる。本会は女性外来担当医師の発案に基き、患者と元患者を中心に医師を通して賛同者の募集が行われたため、賛同者の大半が女性外来に通院中であり、体調が良い時ばかりとは限らない。また、準備会を開催した場所は千葉市内であるが、賛同者の中には遠方の者も多かった。したがって、「出かけようと思っても、体調や遠距離で容易には出かけられない」ということも、設立準備会への出席が低かった一因と考えられる。いずれにせよ、参加者の多くが「更年期障害等で不定愁訴を持つ患者」という本会の賛同者の特性から、会の運営に積極的に関わる意欲があり、体調も比較的良い者となると少数になってしまったものと考えられる。

b.コアメンバーの活動力:運営委員には、準備会に2回以上出席した13人に就任を依頼した。各人が運営委員の就任を快諾してくれたが、「病気もあるので、負担が大きいと困る」という意見が多く聞かれた。月1回の例会に出席するために、1ヶ月間の体調管理を行っているという会員もおり、会の運営に関わることにより体調が悪化することになれば、本末転倒である。したがって、「月1回の例会になるべく出席する」ことだけを条件とし、運営委員に就任を依頼した。運営委員を承諾した会員にしても、8回のうち2回以上の出席者であり、今後についても例会に毎月出席できる保証はない。その点では、運営委員という会の運営のコアメンバーであっても、会の運営にどれだけ積極的に関われるかという点では、不確実な点が多く、当面は事務局主導で会の運営をせざるを得ない状況である。元利用者や主旨に賛同する患者以外の者の参加が会の運営の安定化には必要と考えられ、会員募集を幅広く行う必要があると考えられる。

c.活動準備資金:事務局では、毎月の設立準備会終了後にNewsを作成し、設立準備会の報告と次回の案内を賛同者に郵送してきた。設立のための準備資金がない状態で準備会を開始しため、10月末のシンポジウム開催の企画・運営の委託事業による収入を得るまでは、事務局がNewsの郵送料(約10万円)を全て立替えた。しかし、本来は設立準備会の立ち上げ前に、準備資金を用意しておくべきであり、その点は会を設立する上で大きな失点であったと考える。女性外来担当医師等に会の主旨を説明し、準備資金のための寄付を依頼するなどの方法もあったと思われ、会設立の発起人は単に名を連ねるだけではなく、資金面での支援もする立場にあったと思われる。会の設立前の準備資金については、今後、支部の立ち上げなどを行っていく場合には、あらかじめ検討する必要がある。

d.会員のIT環境:資金面での課題は、活動費としての会費の活用である。会費は無職の人でも負担感が少ないことを第一に考え、月250円(年会費3000円)と決定した。しかし、実際は、月250円の大部分はNewsの発行に関する諸費用で月会費の大部分が失われてしまう。従って、何か行事を行うことを考えた場合、資金面で会の活動を支えるには不十分な額しか残らない。会員の負担を増やさずに活動資金を充実されるためには、会費に占める通信費の割合を減らすことが今後の課題である。もし、会員全員がインターネットを使える環境にあり、会報の送付をEメールで行えれば、事務経費は大幅に削減できるため、会員のIT環境が現在よりも進むことを期待したい。

e.インターネットによる情報発信:現在は、会員のIT環境が不十分であり、インターネットによる情報発信については設立準備会の中でも、積極的な発言はみられなかった。しかし、更年期女性に対する情報発信や相談を実施しているNPO「メノポーズを考える会」のように、インターネットを活用して幅広い活動をしている先例も参考にしながら、女性外来利用者の横のつながりを広げていくためにも、インターネットの活用は不可欠と考えられる。独自のドメインの取得などは費用がかかるが、無料サイトの活用によりホームページを作成することも可能である。会の拡大のためにも、ホームページは不可欠であると考えられるため、会のホームページ作成も今後の課題である。

4.薬物動態の性差に応じた薬物療法の最適化に関する研究(千葉県立東金病院女性総合診療科の処方実態に関する調査研究ならびに更年期障害に対する処方薬剤とエストロゲンβ受容体CAリピート多型との相関に関する研究)

千葉県立東金病院女性総合診療科の薬剤処方に関する研究から次のことが明らかとなった。
・ 東金病院の女性専用外来では、漢方製剤の使用頻度が高い
・ 漢方製剤は、更年期障害の適応がある薬剤の処方頻度が高い
・ 漢方製剤は、年代ごとの処方頻度によって分類できる
・ 中枢神経系用剤は、年齢に関係なく処方される
・ 中枢神経系用剤では、SSRIやBZPなどの製剤が多く処方されている
・ 消化器官用剤および循環器官用剤は年齢が高くなるほど処方割合が増加する
・ ホルモン製剤はホルモン補充療法に使用する薬剤が多い

東金病院女性専用外来においては、薬剤処方数および薬剤品目数が過去3年半の期間中、急激に増加していたことから、女性専用外来にはニーズがあると推察された。

処方薬剤の薬効分類では、漢方製剤が最も多く処方されており、使用頻度の高かった漢方薬は、加味逍遥散、半夏厚朴湯、当帰芍薬散、桂枝茯苓丸であった。最も処方の多かった加味逍遥散は、特に精神症状を伴う更年期症状に有効であるとの報告があり、次に処方の多かった半夏厚朴湯は、うつ病、パニック障害などの精神症状に使用されることが多い薬剤であることから、精神科領域の患者が多いことが示唆された。

さらに、処方の多かった10種類の漢方処方について年齢別に解析を行った結果、漢方製剤は大きく4群に分類できると示唆された。即ち、当帰芍薬散、温経湯などの比較的若い年齢層における処方が多い群、加味逍遥散、桂枝茯苓丸の閉経前後での処方が多い群、八味地黄丸のように年齢が高くなるに伴い処方が多くなる群、呉茱萸湯、防風通聖散など各年齢平均して処方されている群に分類できると考えられた。したがって、個々の薬剤を年齢ごとに解析することで、女性専用外来における漢方製剤の適正使用が可能となると思われた。

中枢神経系用剤では、ベンゾジアゼピン系製剤(BZP)やセロトニン選択的取り込み阻害剤(SSRI)の処方が多いことから、女性外来では不安、不眠、うつ病などの精神症状に用いられる薬剤の処方が多いことが示された。したがって、精神神経症状に用いる漢方製剤も多いことなどからも、精神科疾患の患者の多いことが示唆された。消化器官用剤、循環器官用剤は、高齢になるほど処方される割合が増加していた。消化器官用剤はプロトンポンプインヒビターやH2ブロッカーなどの消化性潰瘍用剤や制酸剤が多く処方されたが、これは年齢が増加するほど、胃が荒れやすくなると共に服用する薬剤が増加していることに起因していると思われる。

また、循環器官用剤の中で処方が多かった薬剤は、硝酸剤やCa拮抗薬などの血管拡張剤、スタチン系薬剤などの高脂血症用剤であったが、これは更年期以降の女性ホルモンの低下により引き起こされる高血圧や高脂血症に処方されているためと思われる。ホルモン剤では、卵胞ホルモン剤、黄体ホルモン剤が多く、処方は更年期に集中しているため、ホルモン補充療法(Hormone Replacement Therapy: HRT)で処方されていることが示された。このような処方実態ならびに遺伝子多型と有効処方の関連性を示唆する研究結果は、診断、治療に性差の視点、遺伝子解析を組み合わせた新たな切り口を導入することにより、女性のQOLの向上を支援できることが示唆され、薬物療法の個別化における理解の第一歩となると考える。

5.高齢者の自立度低下要因に関する性差研究

高齢者が発症する疾病には性差がみられ、また、高齢者の活動や自立を低下させる要因にも性差がみられる。自立度が低下する要因の一位が男女とも脳卒中であることは当然であるが、女性高齢者の活動や自立を低下させる要因として、生物学的性差である女性の筋骨格系の虚弱化、閉経後に急速に進む骨粗鬆症が挙げられるのは特徴的である。また男性高齢者に多い肺や気管支の病気は、男性に喫煙者が多いことから伺える。

6.不妊を主訴とする女性患者と男性患者の心理特性の性差研究

不妊を主訴とする患者において、抑うつ状態においては、女性不妊患者は男性不妊患者に比較して高い抑うつ状態であることが示された。不妊症にたいする感情、言い換えればこどもが欲しいという気持ちは一般的には女性のほうが強い。またこどもができない責任を感じる感情も女性に強いと推測される。

さらには成育医療センター女性外来へ不妊を主訴として来院した患者は、すでに他の医療施設で診療を受けた結果満足を得ていないケースが多く、この面にも男性不妊患者との差を生んだ理由があると想定される。

SF-36については、日常役割機能(身体)、体の痛み、全体的健康感、社会生活機能の4項目で女性不妊患者は男性不妊患者より低い数値を示したが、上記4項目は、体の痛みやこころの状態の影響で、仕事や人との付き合いなどの普段の活動が思い通りにできたかを問うもので、総合的にみて自分が健康であるかの認識も確認している。結果は、不妊という病状を有する女性では男性よりも健康感が小さいことを示している。 国民標準値との比較でも、男性患者においては、心の健康項目が低値を示した以外は、標準値と差はなかったが、女性患者においては、特に日常役割機能において身体面でも精神面でも低い値を示していた。これは社会や家庭生活において日常的な仕事が充分にできていないとの認識を持っているとの特徴を示している。

女性不妊患者がこのような心理状態にある可能性を認識して医療を行うことは多くの利点がある。一つには不妊患者の診療には夫婦双方の協力が不可欠であり、不妊の原因が男性、女性またはその両方のいずれであったとしても、女性患者との間の信頼関係を構築する上で重要な情報となる。

7.循環器病危険因子の性差に関する研究

男性においてメタボリックシンドロームを合併すると糖尿病の病態にインスリン抵抗性、炎症がより強く関与してくる可能性があり、またアディポネクチンが男性においてインスリン抵抗性により強く関与している可能性を示唆していると考えられた。メタボリックシンドローム合併糖尿病の病態には男女差が存在する可能性が示唆される。

8.性差を加味した女性健康支援のためのIT環境の構築

性差医療情報ネットワークNAHWに登録されている全国の女性外来開業施設に向け、データファイリングシステムの活用と趣旨の啓蒙を図り、展開して来た結果、2006年に6施設で運用が開始された。NAHWの組織は、およそ300施設が参加しており、2/3が、大学・県立・センター病院・市立等の中核病院で、1/3が、診療所クラスである。先生方の取り組みは前向きであり、趣旨に賛同する方が多々いても、参加施設の規模や環境が一様ではないことから、データファイリングシステムを普及するためには単純ではないことが掴めた。その代表的な意見として次のようなことが挙げられる。
◆施設内にシステム技術者がいなく、専門知識を持ち合わせてないと、サーバを構築することができない。また、障害発生時の対処ができない。サーバのセットアップ支援や障害対応のルートを考慮する必要がある。
◆女性外来データファイリングに必要なインフラを用意できない。利用できるパソコンの機種が限定されしまう。
◆大病院には医事、オーダリング、電子カルテなどの基幹システムが稼働しており、女性外来データファイリングとしてのサーバおよび端末を共有できない。女性外来医師ではシステム管理者に折衝できない。
◆女性外来の医師は、週に1度の非常勤であるケースも多く診察中に診療データの登録処理がこなせない。入力行為は、看護師が支援できる体制が必要である。
従って、これらの技術面や運用面の課題を解消して、データファイリングシステムの普及を図ることが、今後の優先な取り組みとして考える。

9.千葉県における女性の健康支援の取り組み事業報告 

全国知事会における調査結果から、
@女性専用外来は都道府県立病院のみならず、民間の医療機関も含め、全国に拡大してきているが、受診者の主訴と担当する医師の専門性に乖離が認められることから、メンタルヘルスへの対応等医療の質的な検討が必要である。
A女性の健康課題に応じた取組み状況をみると、青壮年期の月経不順・子宮内膜症、中・高齢期の高脂血症等に対する取組みが少なく、課題に応じた取組みが必要である。と考えられた。なお、この調査以降、女性専用外来の開設は、更に進み、現在では全国の都道府県で開設されるに至っている。

10.女性外来実態調査

現在、女性外来は患者側のニーズを受け、急速にその施設数が増加しているが、現場の実態は天野が理想としている「性差医療に基づく女性外来」とは、大きくかけ離れている。現在の医学教育の中で、性差の視点が取り込まれていない現状では、現場の女性外来担当医師に必要な教育機会を提供するところから始めなくてはならない。上野の報告にも見られるように女性外来では、精神症状を呈する患者が多く、漢方、中枢神経系用剤の使用頻度が高い。千葉県から始まり、全国で漢方ならびにメンタルヘルスのセミナーを女性外来担当医師に向けて展開している。参加者の熱意は非常に高い。しかし、そこで聞かれる声は、女性外来開設医療機関における周囲のスタッフの関心の低さであり、「一生懸命やろうとしても、院長にそこまでやらなくていいと言われた」「産休で休まれる先生の代理が見つからない」など、未だ、少数の女性外来担当医師の熱意と情熱に成功・不成功が委ねられている。生涯にわたる女性の医療の中で、女性ホルモンと環境がもたらす女性特有の健康障害・疾病に関する理解が教育の中で、医療政策の中で、更に進むことが必須である。

11.女性の健康とアジアの伝統医療

今回の国際会議での各国の報告から、現在日本で天野を中心に女性専用外来で行われている治療方法 − 漢方治療を基礎に性差医療のエビデンスに基づいた西洋医学治療を組み合わせる方法 − の効果と適切性が、諸外国における研究によっても同時発生的に証明されつつある、ということが判明した。今後は、国内各地の女性専用外来から集められる症例をデータベース化することにより日本国内レベルでもエビデンスを集積し、女性専用外来における漢方治療の効果と安全性を科学的に検証していく作業が不可欠である。また、西洋医学治療と漢方を組み合わせることにより、従来の医療では対処しきれなかった症状に治療効果をあげることが立証された暁には、西洋医学教育を受けた女性専用外来担当医師に日本の伝統医療(具体的には漢方)を積極的に勉強する機会を提供するため、医師の卒後教育プログラムの中に漢方を組み込むことが肝要である。