平成17年度厚生労働科学研究費補助金 子ども家庭総合研究事業
分担研究報告書

U-(3)

女性外来利用者を中心とした市民による性差医療の啓発・普及を目指して
− 女性外来・性差医療を育てる会(いちごの会)の設立 −

 

主任研究者 天野 恵子 (千葉県衛生研究所 所長)

研究協力者 柳堀 朗子  ( 千葉県衛生研究所 特別研究員 )

研究要旨

女性専用外来は受診者の満足度が高いことが報告されているが、周知度の低さや性差医療の考え方への市民の理解不足から、必ずしも必要とする人たちが利用できているとは限らない。女性外来の普及を図るには、受診者が声を上げていくことが有効であるが、受診者が特定の疾患に限定されない場合は、受診者の横のつながりを作りにくい。また、受診者の特性から、受診者相互のコミュニケーションを図ることは、ピア・カウンセリングにもなり、受診者に良い効果をもたらすことが期待されるが、心身の不調を抱えている受診者が率先して会を設立することは難しい。そこで、医師が発起人となり、受診者・元受診者を中心とした「市民団体」の設立を試みた。その過程を通し、発起人に会員資格がなく、また会の設立を熱望する人材に不足するような場合における、市民団体設立のための仕掛けや課題等を検討した。その結果、設立準備会賛同者が設立時の会員になる上では、設立の意図を汲んだ事務局の存在、数回の設立準備会を通したコアメンバーの獲得、会報による連絡が有効であったと考えられた。しかし、設立のための資金準備の不足、会のPRや連絡においてIT活用ができなかったことは課題として残った。

A. 研究目的

千葉県では、2001年9月に県立東金病院に女性専用外来が開設されたのを皮切りに、行政の後押しもあり、県立病院、県内の大学病院等を中心に女性専用外来の設置が急速に進んだ。初診時の女性医師による傾聴は受診者に好評であり、日頃の3分診療では得られない満足感を得ていることが県立東金病院利用者の感想の中でも報告されている1)。現在でも女性専用外来の予約状況はほぼ一杯であり、一部には数ヶ月待ちの状況もある。

このように千葉県内の女性専用外来の普及は医療者に女性医療、性差医療の必要性を認識させると共に、利用者である市民にもその理念や意義が浸透する必要があるが、女性専用外来の周知率は全体では約3割と2)高いとは言えず、必要とする人たちが受診できていないことが考えられる。

また、女性専用外来の利用者の受診理由の第3位に心の問題が上がっていること、受けたい治療の第一位はカウンセリングであること1)、「薬も出さず、注射もせずに、30分ほど話を聞くだけで、相談に見えた女性は、にっこりと満足して帰られる。自分はいままで何をやっていたのかと考えさせられました」という医師の言葉3)にもみられるように、話を聞いてもらう、思う存分に話が出来るということが利用者に女性外来が女性たちの支持を得ている背景にあると考えられる。
更に、待合室での利用者同士の会話がピア・カウンセリングとして機能し、利用者から「利用者同士の横のつながり」を求める声が出ていること、実際に診療後に患者仲間で誘い合わせて「おしゃべり」を楽しんでいる利用者もいることが、担当する医師により明らかにされた。

女性外来の普及を図るには、受診者が声を上げていくことが有効であるが、受診者が特定の疾患に限定されない場合は、受診者の横のつながりを作りにくい。また、受診者相互のコミュニケーションが、受診者の心身に良い効果をもたらすことが期待されるが、心身の不調を抱えている受診者が率先して会を設立することは難しい。そこで、医師が発起人となり、(1)性差医療の考え方を市民にも普及することにより、上手な医療の利用者を育成していくこと、(2)女性外来の利用者同士がお互いの闘病経験を話すことにより、心の負担を軽くし、利用者のエンパワーメント図ることを目的に、受診者・元受診者を中心とする「市民団体」の設立を試みた。その過程を通し、発起人に会員資格がなく、また会の設立を熱望する人材に不足するような場合における、市民団体設立のための仕掛けや課題等を検討した。

B. 方法

1.設立までの手続き
  正式な会を設立するにあたり、1)世話人・発起人による設立準備会の発足の呼びかけ、2)設立準備会の発足、3)会員募集、4)設立準備会の定期的開催、5)会を運営する会員の選出、6)会の発足、という手続きをとった。

2.費用の捻出
  設立までの会の運営に関する事務費用については、性差医療情報ネットワーク(NAHW)が平成17年11月に開催する「性差医療シンポジウム」の企画・運営を、準備会が担うことにより賄った。

3.設立準備会の運営
  設立準備会は、第1回の話合いにより毎月1回開催することになった。会の議事録、話合いの内容を記したNewsを事務局が発行し、参加者に郵送またはファックスで配信した。

4.正式な会への参加確認
  正式に発足する会への参加確認は、準備会参加者への葉書による意思確認により行った。

C.結果


1.世話人・発起人による設立準備会の発足の呼びかけ

平成17年1月に、千葉県東金病院副院長であり、女性外来を担当している天野医師が、同院の女性外来担当医師の合意の下、「女性外来を守る県民の会」の発足を提案した。

提案された内容で、氏が担当する女性外来患者に「入会の呼びかけ」を開始したが、医師主導の会ではなく、参加者が主体的に運営する会にしていくには、設立準備会を作り、会員の意識を高める必要があると考えられた。そこで、性差医療情報ネットワーク(NAHW)千葉支部の会員に「女性外来利用者を中心とする市民団体」の発起人への協力を呼びかけた。

6名が発起人となることを同意し、発起人うち女性外来担当医ではない柳堀が市民サイドの代表(女性外来患者)という立場で、事務局担当を担うことになった。


2.設立準備会の発足

会の名称(仮称)を「女性外来(性差医療)を育てる会」とし、『「女性外来(性差医療)を育てる会」設立にむけて』という主意書を、代表世話人、発起人の名前も明記した上で、事務局名で作成した。設立準備会は「会を正式に発足させるため、関心の高い人たちが集まり、会の内容を考えていく会」と位置づけた。

会の主旨に賛同する人たちは、それぞれの面識がまったくないということを考慮し、第1回の設立準備会は、平成17年3月6日にNAHW千葉支部が主催する講演会の後に行うこととし、「講演会を聞きに行く」ということで、設立準備会への参加を促すようにした。


3.会員募集

会員の募集は、東金病院女性外来利用者へのダイレクトメールの発送、女性外来担当医師からの紹介、NAHW会員への会員募集への協力呼びかけを中心に行った。

東金病院女性外来利用者約800名に会の主意書、第1回設立準備会の案内、講演会の案内、参加申込書を郵送した。また、同じものを、女性外来担当医師から外来患者に配布するようにした。

その結果、3月5日時点では35名から申込みがあり、その後も参加申し込みは随時受け付けるようにした結果、10月末の設立総会までには準備会への参加者(賛同者)は95名となった。


4.設立準備会の定期的開催

a.第1回設立準備会(資料1
  H17年3月6日 14:40〜15:30
「NAHW千葉支部講演会」の後に同じ会場で引き続いて開催した。15名が出席し、会の正式発足に向けてどのように取り組むかを話し合った。会の開催は、次回まで期間が開いてしまうと意欲が低下することから、翌月に集まることとなった。会場を借りると費用がかかることから、千葉駅に近いファミリーレストランとし、事務局が会場確保の手続きを取ることになった。

b.第2回設立準備会(資料2
H17年4月15日 13:00〜15:00 14名
会の目的等を確認した後、どんな会にしたいか、会の呼称、今後の活動について話し合った。年内に会を正式発足させることで出席者の合意を得た。会の呼称は「いちごの会」とすることになり、今後の活動は1ヶ月に1回、第1日曜日13時30分から会合を持つことになった。会場は、千葉市在住の会員が公民館などの公共施設で利用できる場所を探すことになった。

c.第3回設立準備会(資料3
H17年5月15日 13:30〜15:30 10名
  会の発足日と付帯行事についての報告、会則案についての検討、定例会での活動内容の検討を行った。また、会に参加した人のプライバシー保護のために、「他の参加者の氏名等は他人には口外しない」という取り決めを行った。参加者から性差医療に関する新聞記事、雑誌記事の紹介があった。

d.第4回設立準備会(資料4
H17年6月45日 13:30〜15:30 12名
会の活動として行いたいこと、設立総会についての意見交換を行った。また、会員同士のフリートーキングでは、会員から「夫や家族に病状を理解してもらえない」という悩みや「こんな症状で辛い」「こんな闘病生活をしている」という声が出された。

e.第5回設立準備会(資料5
H17年7月3日 13:30〜15:30 9名
  悩みや疑問、自分にとっての本会の意義などを自由に意見交換した。「会への出席が楽しみ」「更年期障害を乗り越えた方からの話は参考になる」「自分が開放される」等の意見が出され、会が継続することへの期待が示された。また、会員から「このような場合にどうしたらよいか」という相談が出されたので、参加者の意見徴収と共に事務局で女性外来担当医の意見を聞くことにした。

f.第6回設立準備会(資料6
H17年8月7日 13:30〜15:30 5名
  暑さもあり出席者が少なかったが、設立総会・シンポジウムについての報告の後、フリートーキングを実施した。色々な意見交換の中では、「笑う場面」も多く、和気藹々とした中で散会となった。

g.第7回設立準備会(資料7
H17年9月4日 13:30〜15:30 6名
  会則について再検討し、会員・会費・運営委員会・事務局の項について修正をすることになった。また、役員の人選を行い、代表、副代表、監査を決定した。会発足後の行事であるが、会場として借用している公民館より、文化祭への協力要請があったことが報告され、運営委員2名が協力することになった。

h.第8回設立準備会(資料8
H17年10月2日 13:30〜15:30 11名
  総会前の最後の集まりであり、今後の活動内容や委員について話し合った。また、事務局が準備会参加者に対し、正式に発足する会への参加についての意思確認を行うことが報告された。

i.設立総会
H17年10月29日 13:00〜13:45 14名
  設立総会を千葉市ハーモニープラザ創作室にて行った。設立準備会の代表世話人であった天野氏からの挨拶、事務局からの設立までの経緯説明、会則(資料9)の承認、役員の承認の後、代表を議長として活動計画・予算等についての審議を行った。

天野氏からは「患者さんを中心とした会ではあるが、おしゃべり会だけではなく、年に1回は多くの人に集まってもらうような企画をして欲しい。企画実現に向けた支援は惜しまない。」という挨拶があった。

設立時の会員数は30名であることが事務局から報告された。

審議事項では、NTTデータからのインタビュー申込については、活発な意見交換があり、11月6日の第1回例会でインタビューの目的等を再確認することになった。

D. 考察


約半年の準備期間を経て、本研究の目的であった「市民団体の設立」は達成することができた。団体設立に当たり、@発起人が会員になる立場ではない、A患者・元患者が会員の中心ではあるが、疾患が必ずしも同じではない、という特殊な事情があっても、目的どおりに設立することができた要因を考えてみたい。

1つは代表世話人の医師の熱意とその意図を汲んだ事務局の存在である。代表世話人、多くの発起人は医師であり、会員になる立場ではなかったが、世話人の一人が中高年女性の健康問題を研究課題とする非医療関係者であり、代表世話人の意図を汲んで事務局を担うことが出来た。事務局担当者と設立準備会の賛同者とは10歳以上の年齢差があっても、事務局担当者が研究等を通して中高年女性との関わりが深かったため、賛同者の心身の状況も理解でき、コミュニケーションを十分にとることが出来たと考えられる。また、代表世話人である医師の「会の設立」への熱意と協力も、事務局の活動を支えとなった。

2つめに、設立時期を設定し、それに向けた設立準備会の開催とコアメンバーの獲得である。年内に設立することを目標に据えた結果、賛同者から月1回の会合を持つことが提案され、8ヶ月に渡り設立準備会を開催した。それを通して、当初は漠然としていた「会の理念や目的」が明確になり、「これなら自分も積極的に係わっても良い」という賛同者が、定期的に設立準備会に参加するようになった。設立準備会に2回以上出席した人に運営委員を委嘱したが、委嘱した13名の内、過半数は5回以上の出席者であり、コアメンバーとして今後も会の運営に積極的に係わっていくことが期待できる。コアメンバーを獲得は会を運営上、不可欠であり、年内設立を第一目標とし、8ヶ月間の準備期間を経た意義は大きいと考える。

第3に会報(News)による連絡である。設立準備会に出席できない者においては、何も連絡がなければ興味も失われてしまう。会報には、進捗状況の報告だけではなく、会の中の雑談から拾い上げた話題なども掲載したため、設立準備会の雰囲気等も多少は伝えられたと考える。実際、賛同者から、「会報を読んで励みになった」「楽しみにしている」という手紙が事務局には寄せられた。会報は、設立準備会に出席しなかった者においては、今後の会の活動を推察する一手段であり、会員として継続参加するという判断の材料になったと考えられる。

このような有効な点があった一方、設立過程で以下のようなの課題が明らかになった。

1.設立賛同者の会員への歩留り
多くの市民団体は、同じ目的に賛同した者が中心となり会の設立を発案し、意見交換を重ねて会を設立していく経緯を辿る。したがって、設立準備会に名を連ねた者は、そのまま正式に会が発足した時の会員となるのが通常である。しかし、本会の場合、8回行った設立準備会に1回以上参加した者は20名弱、設立に賛同した者の中で正式発足時の会員になった者は半数以下であった。準備会への出席率が低かったのは、会の趣旨に賛同するが自分は積極的には関われないという者が多かった結果と思われる。本会は女性外来担当医師の発案に基き、患者と元患者を中心に医師を通して賛同者の募集が行われたため、賛同者の大半が女性外来に通院中であり、体調が良い時ばかりとは限らない。また、準備会を開催した場所は千葉市内であるが、賛同者の中には遠方の者も多かった。したがって、「出かけようと思っても、体調や遠距離で容易には出かけられない」ということも、設立準備会への出席が低かった一因と考えられる。

会の正式発足時に会員となった者が半数以下であったことについては、会費を徴収するという段階になった時に、「受診時に、会の設立を医師から聞き、良いことだと思ったから参加したが、実際には自分は会の活動にも参加できないから必要ない」「予想していたような活動を行う会ではなかった」「体調等が不良であり、会への参加について返事をするのも面倒」等の理由が考えられた。いずれにせよ、参加者の多くが「更年期障害等で不定愁訴を持つ患者」という本会の賛同者の特性から、会の運営に積極的に関わる意欲があり、体調も比較的良い者となると少数になってしまったものと考えられる。

2.コアメンバーの活動力
設立準備会を毎月1回開催する中で、出席者は次第に固定化された。会を運営するための運営委員には、準備会に2回以上出席した13人に就任を依頼した。各人が運営委員の就任を快諾してくれたが、「病気もあるので、負担が大きいと困る」という意見が多く聞かれた。月1回の例会に出席するために、1ヶ月間の体調管理を行っているという会員もおり、会の運営に関わることにより体調が悪化することになれば、本末転倒である。したがって、「月1回の例会になるべく出席する」ことだけを条件とし、運営委員に就任を依頼した。

運営委員を承諾した会員にしても、8回のうち2回以上の出席者であり、今後についても例会に毎月出席できる保証はない。その点では、運営委員という会の運営のコアメンバーであっても、会の運営にどれだけ積極的に関われるかという点では、不確実な点が多く、当面は事務局主導で会の運営をせざるを得ない状況である。元利用者や主旨に賛同する患者以外の者の参加が会の運営の安定化には必要と考えられ、会員募集を幅広く行う必要があると考えられる。

3.活動準備資金
事務局では、毎月の設立準備会終了後にNewsを作成し、設立準備会の報告と次回の案内を賛同者に郵送してきた。設立のための準備資金がない状態で準備会を開始しため、10月末のシンポジウム開催の企画・運営の委託事業による収入を得るまでは、事務局がNewsの郵送料(約10万円)を全て立替えた。しかし、本来は設立準備会の立ち上げ前に、準備資金を用意しておくべきであり、その点は会を設立する上で大きな失点であったと考える。女性外来担当医師等に会の主旨を説明し、準備資金のための寄付を依頼するなどの方法もあったと思われ、会設立の発起人は単に名を連ねるだけではなく、資金面での支援もする立場にあったと思われる。会の設立前の準備資金については、今後、支部の立ち上げなどを行っていく場合には、あらかじめ検討する必要がある。

4.会員のIT環境
資金面での課題は、活動費としての会費の活用である。会費は無職の人でも負担感が少ないことを第一に考え、月250円(年会費3000円)と決定した。しかし、実際は、月250円の大部分はNewsの発行に関する諸費用で月会費の大部分が失われてしまう。従って、何か行事を行うことを考えた場合、資金面で会の活動を支えるには不十分な額しか残らない。会員の負担を増やさずに活動資金を充実されるためには、会費に占める通信費の割合を減らすことが今後の課題である。もし、会員全員がインターネットを使える環境にあり、会報の送付をEメールで行えれば、事務経費は大幅に削減できるため、会員のIT環境が現在よりも進むことを期待したい。

5.インターネットによる情報発信
現在は、会員のIT環境が不十分であり、インターネットによる情報発信については設立準備会の中でも、積極的な発言はみられなかった。しかし、更年期女性に対する情報発信や相談を実施しているNPO「メノポーズを考える会」のように、インターネットを活用して幅広い活動をしている先例も参考にしながら、女性外来利用者の横のつながりを広げていくためにも、インターネットの活用は不可欠と考えられる。

独自のドメインの取得などは費用がかかるが、無料サイトの活用によりホームページを作成することも可能である。会の拡大のためにも、ホームページは不可欠であると考えられるため、会のホームページ作成も今後の課題である。

 

文献

1)竹尾愛理、平井愛山:千葉県立東金病院における女性専用外来のあゆみと今後の課題について、カレントテラピー21(1):25-29、2003。
2)千葉県県幸福支部健康増進課:「県民健康基礎調査」報告書(平成16年9月 千葉県)、2004年。
3)量的拡大から質的充実を目指したい 女性医療先進県千葉の現状: http://www.medical-tribune.co.jp/ss/2004-3/ss0403-1.htm