U-(4)
薬物動態の性差に応じた薬物療法の最適化
分担研究者 上野 光一 (千葉大学・大学院薬学研究院)
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研究要旨
個別化治療にはゲノム情報のみならず、年齢、生活習慣など多様な因子を考慮せねばならぬが、なかでも性差の問題は重要であるがこれまであまり検討されてこなかった。薬物動態や薬物の反応性についてもそれらの性差の基礎的・臨床的研究を推進し、薬物動態と薬物効果における性差を明らかにする必要があるが、医療現場で用いられる医薬品の男女別使用実態調査すらなかったのが現状である。これまでの我々の研究から,多くの医薬品は女性あるいは男性に偏って処方されている実態が明らかになっている。そこで、全国に先駆けていち早く女性外来を立ち上げた千葉県立東金病院女性総合診療科の開設以来の医薬品使用実態調査を行い、併せて薬剤選択理由のエビデンスを求めるため更年期障害治療における選択薬剤とエストロゲンβ受容体遺伝子多型との相関について検討した。
1.千葉県立東金病院女性総合診療科の処方実態に関する調査研究
千葉県立東金病院(以下東金病院)は,全国に先駆けて2001 年9 月に公立病院として初めて性差医療の実践として女性専用外来を立ち上げた医療機関である.そこで,東金病院における女性専用外来の処方実態を調査・解析し,処方薬の把握とともに,女性専用外来における医薬品適正使用の検討,性差医療への薬剤師の関わり方について検討した.
方法としては、千葉大学薬学研究院および千葉県立東金病院の倫理審査委員会の疫学研究承認を得た後,東金病院女性専用外来で処方された薬剤データを院内オーダリングシステムから抽出した.抽出データを年齢,薬価基準収載医薬品コード分類ごとに解析を行った.抽出期間は、女性専門外来開設時の2001年9月から2005年3月31日までの3年6ヶ月であった。
その結果、当該機関の処方箋枚数は8,730枚であり,1ヶ月平均約300枚,処方箋1枚あたりの平均薬剤処方数は3.14剤であった.また,総薬剤処方数は27,447件であり,年々増加傾向であった.年齢別の薬剤処方数は,45〜54歳が9,562件(35%)と最も多く,次いで55〜64歳の6,743件(25%),35〜44歳の3,333件(12%)であった.処方された薬剤を薬価基準収載医薬品コードを用いて薬効分類したところ,漢方製剤,中枢神経系用剤,消化器官用剤,循環器官用剤,ホルモン剤の順番で,処方が多い結果となった.
漢方製剤は,加味逍遙散の処方が最も多く,次いで半夏厚朴湯,当帰芍薬散,桂枝茯苓丸の順となっていた.また,漢方製剤の処方数を各年代の薬剤処方数で割り,年代ごとの割合を求めたところ,20歳代から60歳代までの広い年齢層に使用されていることが明らかとなった.
中枢神経系用剤は全処方の20%を占めており,精神神経用剤と催眠鎮静剤・抗不安剤が大部分を占める結果となった.年代ごとの処方割合はあまり変化がなかった.中枢神経系用剤で薬剤処方数150件以上の薬剤は,セロトニン選択的取り込み阻害剤(SSRI)やベンゾジアゼピン系薬剤などが挙げられた.
薬剤処方が3番目に多かった消化器官用剤は,消化性潰瘍剤が半数を占め,処方割合は年齢と共に増加する傾向であった.
循環器官用剤では,血管拡張剤と高脂血症用剤が多く,処方割合は高齢になるほど増加していた.
ホルモン剤は,ほぼ7割が卵胞ホルモン剤・黄体ホルモン剤であった.45〜54歳で処方件数,処方割合は45〜54歳で最も多かった.
以上より、千葉県立東金病院女性総合診療科の薬剤処方に関する研究から次のことが明らかとなった.
・ 東金病院の女性専用外来では,漢方製剤の使用頻度が高い.
・ 漢方製剤は,更年期障害の適応がある薬剤の処方頻度が高い.
・ 漢方製剤は,年代ごとの処方頻度によって分類できる.
・ 中枢神経系用剤は,年齢に関係なく処方される.
・ 中枢神経系用剤では,SSRIやBZPなどの製剤が多く処方されている.
・ 消化器官用剤および循環器官用剤は年齢が高くなるほど処方割合が増加する.
・ ホルモン製剤はホルモン補充療法に使用する薬剤が多い.
本研究によって明らかとなった女性専用外来における処方実態は,薬物療法の個別化における理解の第一歩となると考える.
2.更年期障害に対する処方薬剤とCAリピート多型との相関解析について
更年期障害の治療においては,不足する女性ホルモンを補えばよいという考え方から,欧米諸国ではホルモン補充療法(hormone replacement therapy; HRT)が第一選択とされてきた.しかし,本邦においてはこれまで更年期障害の認知度が必ずしも高くなく,確立された治療法の実施実績は乏しい.現在,本邦では更年期障害の薬物療法として,エストロゲン製剤を主として用いるHRTの他に漢方製剤,中枢神経系用薬などが使用されている
.しかしながら,エビデンスが少なく,医師の経験に頼っているのが現状である.加えて,米国においてHRTのリスクがベネフィットを上回ることが報告され,医療現場ではHRTの適正使用に向けた更なる研究とHRTの代替薬におけるエビデンスの確立が必要とされている.
我々はこれまでに更年期女性のエストロゲン受容体CAリピート多型解析から,この多型と更年期障害の症状との間に関連を見出している.CAリピート多型と更年期障害の症状とに関連性が示されたことは,更年期障害に対する薬物療法がこの多型により異なる可能性が示唆される.そこで,更年期障害の薬物療法のエビデンスを遺伝子多型解析という新たな切り口から確立するために,更年期障害患者に処方された薬剤データをCAリピート多型との相関という観点から解析した.
本研究は千葉大学薬学研究院および千葉県立東金病院の倫理審査委員会の承認を得て行われた.また,処方薬調査についても同倫理審査委員会の疫学研究承認を得た.対象患者は、千葉県立東金病院女性外来を受診し,更年期障害と診断され,それに対する薬物療法が行われた患者のうち,同意が得られた63名(平均年齢52.6±4.1歳)とした.処方薬解析は、対象患者に処方された薬剤のうち,更年期障害の諸症状に対して3ヶ月以上処方された薬剤をオーダリングシステムにより抽出し、抽出したデータを薬効分類コードにより分類して行った.分類した漢方製剤,中枢神経系用薬,ホルモン剤について,処方率をER β遺伝子 CA リピート多型のgenotypeごとに解析し,患者のgenotypeと処方傾向との関連を調査した.なお,抽出された薬剤の処方医は2名であった.CAリピート遺伝子多型解析はRT-PCR法、キャピラリ−シークエンス法およびWAVE法にて行った。21 CAリピートをカットオフ値とし,CA≦21をshort allele(S),CA≦22をlong allele(L)と区分した。統計解析はχ2検定により行った.
その結果、抽出した処方件数は,195件であった.これらの内訳は,漢方製剤が97件で49.7%を占めており,中枢神経系用薬は52件(26.7%),ホルモン剤は42件で21.5%であった.漢方製剤は23種類であり,加味逍遥散が最も多く18件(18.6%),続いて半夏厚朴湯11件(11.3%),桂枝茯苓丸10件10.2%)であった.中枢神経系用薬は精神神経系用薬が最も多く28件(53.8%)であり,そのうち16件(57.1%)が選択的セロトニン再取込み阻害薬(SSRI)であった.また,21件(40.4%)が催眠鎮静剤・抗不安剤であり,そのうち17件(81.0%)がベンゾジアゼピン系製剤であった.ホルモン剤は全てHRTの薬剤であった.
対象者のCAリピートgenotypeは,SS genotypeが29名と最も多く,次いでSL genotypeが19名,LL genotypeは15名であった.
漢方製剤の処方率は,SS genotypeの者が75.9%,SL genotypeでは89.5%,LL genotypeでは86.7%と全てのgenotypeにおいて高い割合であった.一方,中枢神経系用剤およびホルモン剤では処方率は漢方に比べて高くないものの,SS genotype,SL genotype,LL genotypeの順に割合が低くなる傾向がみられた.また,漢方製剤単独療法と他の薬剤との併用療法の割合の検討では,SS genotypeが2.14,SL genotypeが1.43,LL genotypeが0.86とSS genotypeはLL genotypeの2.5倍も併用している者が多いという結果が得られた.
漢方製剤が処方されている者のうち,更年期障害治療の使用頻度の高い代表的な3つの漢方製剤(3大漢方処方)である加味逍遥散,桂枝茯苓丸,当帰芍薬散とその他の漢方製剤とに分けて行った解析では,3大漢方処方の処方率がSS genotypeの者は72.7%,SL genotypeでは47.1%,LL genotypeでは38.5%とSS genotype,SL genotype,LL genotypeの順に割合が低くなり,SS genotypeはLL genotypeに比べて処方率が有意に高いことが示された (Fig.27).なかでも,桂枝茯苓丸の処方率はSS genotypeの者は31.8%であるのに対して,他のgenotypeの者は10.0%とSS genotypeで有意に高かった.
以上の結果,これまでQOLが著しく阻害されていた更年期障害の認知度は低いものであったが,診断,治療に遺伝子解析を組み合わせた新たな切り口から,女性のQOLの向上を支援できることが示唆され、以下のことが明らかとなった.
・CAリピート多型のSS genotypeの者は,他のgenotypeの者に比べて更年期障害が現れやすく,多種類の薬物療法が行われる可能性が示唆された.
・SS genotypeの者は,3大婦人科用漢方処方,特に桂枝茯苓丸を選択薬の一つにすることが望ましいと示唆された
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1.千葉県立東金病院女性専用外来の処方実態に関する調査研究
A. 研究目的
本邦におけるGSMの実践としての女性専用外来は,2001年5月に鹿児島大学第一内科ではじめて立ち上げられ,「初診は30分間」「症状,主訴を問わない」「紹介状は不要」「女性医師が診療を担当する」という画期的な試みから,多くの女性のニーズを捉えることとなった1).2005年3月の時点では,47都道府県すべてにおいて300を超える医療機関に女性専用外来が開設されており,各施設での運用形態は多様であるが,その多くが患者から高い評価を受け,いまだに診療予約は数ヶ月待ちの状態も続いている.千葉県立東金病院(以下東金病院)は,全国に先駆けて2001 年9 月に公立病院として初めて性差医療の実践として女性専用外来を立ち上げた医療機関である.そこで,東金病院における女性専用外来の処方実態を調査・解析し,処方薬の把握とともに,女性専用外来における医薬品適正使用の検討,性差医療への薬剤師の関わり方について検討した.
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B. 研究方法
千葉大学薬学研究院および東金病院の倫理審査委員会から疫学研究承認を得た後,東金病院女性専用外来で処方された薬剤データを院内オーダリングシステムから抽出した.抽出データを年齢,薬価基準収載医薬品コード分類ごとに解析を行った.
抽出期間は女性専門外来開設時の2001年9月から2005年3月までの3年6ヶ月とした.
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C.研究結果
処方箋枚数は,8,730枚,1ヶ月平均約300枚,処方箋1枚あたりの平均薬剤処方数は3.14剤であった.また,総薬剤処方数は27,447件であり,年々増加傾向にあった(Fig.1).

Fig. 1. Change of the frequently in use of prescription drugs number in Women’s Outpatient Clinic.
年齢別の薬剤処方数は,45〜54歳が9,562件(35%)と最も多く,次いで55〜64歳の6,743件(25%),35〜44歳の3,333件(12%)であった(Fig. 2).
Fig. 2. Distribution of the prescription drugs according to age in Women’s Outpatient Clinic.
処方された薬剤を薬価基準収載医薬品コードを用いて薬効分類したところ,漢方製剤,中枢神経系用剤,消化器官用剤,循環器官用剤,ホルモン剤の順番で,処方が多い結果となった(Fig.3).
Fig. 3. Frequently in use of prescription drugs in Women’s Outpatient Clinic.
漢方製剤は,加味逍遙散の処方が最も多く,次いで半夏厚朴湯,当帰芍薬散,桂枝茯苓丸の順であった(Fig. 4).また,漢方製剤の処方数を各年代の薬剤処方数で割り,年代ごとの割合を求めたところ,20歳代から60歳代までの広い年齢層に使用され,高齢になるとその割合が低くなる傾向であることが明らかとなった(Fig. 5).さらに,薬剤処方数の多かった10品目の年齢別の割合はFig. 6に示す通りであり,品目ごとに処方される年代が異なることが示された.

Fig. 4. Prescription frequency of Kampo medicine in Women’s Outpatient Clinic.

Fig. 5. Distribution of prescription ratio of Kampo medicine according to age in Women’s Outpatient Clinic.
Fig. 6. Distribution of prescription ratio of ten Kampo medicines according to age in Women’s Outpatient Clinic.
中枢神経系用剤は全処方の20%を占めており,精神神経用剤と催眠鎮静剤・抗不安剤が大部分を占める結果となった(Fig. 7).年代ごとの処方割合はあまり変化がなかった(Fig. 8).中枢神経系用剤で薬剤処方数150件以上の薬剤は,セロトニン選択的取り込み阻害剤(SSRI)やベンゾジアゼピン系薬剤などが挙げられた(Table 1).

Fig. 7. Prescription frequency of CNS agents in Women’s Outpatient Clinic.
Fig. 8. Distribution of prescription ratio of CNS agents according to age in Women’s Outpatient Clinic.
Table 1. List of the prescription drugs for CNS agents in Women's Outpatient Clinic.
薬剤処方が3番目に多かった消化器官用剤は,消化性潰瘍剤が半数を占め,処方割合は年齢と共に増加する傾向であった(Fig.9, 10).
Fig. 9. Prescription frequency of Apparatus Digestorius drugs in Women’s Outpatient Clinic.
Fig. 10. Distribution of prescription ratio of Apparatus Digestorius drugs according to age in Women’s Outpatient Clinic.
循環器官用剤では,血管拡張剤と高脂血症用剤が多く,処方割合は高齢になるほど増加していた(Fig11, 12).
Fig. 11. Prescription frequency of cardiovascular drugs in Women’s Outpatient Clinic.

Fig. 12. Distribution of prescription ratio of cardiovascular drugs according to age in Women’s Outpatient Clinic.
ホルモン剤は,ほぼ7割が卵胞ホルモン剤・黄体ホルモン剤であった(Fig. 13).45〜54歳で処方件数,処方割合は45〜54歳で最も多かった(Fig. 14).

Fig. 13. Prescription frequency of Hormones in Women’s Outpatient Clinic.

Fig. 14. Distribution of prescription ratio of Hormones according to age in Women’s Outpatient Clinic.
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D. 考察
東金病院女性専用外来において薬剤処方数および薬剤品目数は3年半の期間中,急激に増加していたことから,女性専用外来にはニーズがあると推察された.
処方薬剤の薬効分類では,漢方製剤が最も多く処方されていることから,漢方治療が積極的に行われていることが示された.使用頻度の高かった漢方薬は,加味逍遥散,半夏厚朴湯,当帰芍薬散,桂枝茯苓丸であったが,加味逍遥散,当帰芍薬散,桂枝茯苓丸の3剤は三大婦人科用漢方処方と呼ばれており,更年期障害の治療において処方されることが多い2,3).したがって,更年期障害の患者が多いことが示唆された.また,最も処方の多かった加味逍遥散は,特に精神症状を伴う更年期症状に有効であるとの報告があり4),次に処方の多かった半夏厚朴湯は,うつ病,パニック障害などの精神症状に使用されることが多い薬剤である5)ことから,精神科領域の患者が多いことが示唆された.
さらに,処方の多かった10種類の漢方処方について年齢別に解析を行ったところ,漢方製剤は大きく4群に分類できると示唆された.即ち,当帰芍薬散,温経湯などの比較的若い年齢層における処方が多い群,加味逍遥散,桂枝茯苓丸の閉経前後での処方が多い群,八味地黄丸のように年齢が高くなるに伴い処方が多くなる群,呉茱萸湯,防風通聖散など各年齢平均して処方されている群に分類できると考えられた.したがって,個々の薬剤を年齢ごとに解析することで,女性専用外来における漢方製剤の適正使用が可能となると思われた.
中枢神経系用剤では,ベンゾジアゼピン系製剤(BZP)やセロトニン選択的取り込み阻害剤(SSRI)の処方が多いことから,女性外来では不安,不眠,うつ病などの精神症状に用いられる薬剤の処方が多いことが示された.したがって,精神神経症状に用いる漢方製剤も多いことなどからも,精神科疾患の患者も多いことが示唆された.
消化器官用剤,循環器官用剤は,高齢になるほど処方される割合が増加していた.消化器官用剤はプロトンポンプインヒビターやH2ブロッカーなどの消化性潰瘍用剤や制酸剤が多く処方されたが,これは年齢が増加するほど,胃が荒れやすくなると共に服用する薬剤が増加していることに起因していると思われる6).また,循環器官用剤の中で処方が多かった薬剤は,硝酸剤やCa拮抗薬などの血管拡張剤,スタチン系薬剤などの高脂血症用剤であったが,これは更年期以降の女性ホルモンの低下により引き起こされる高血圧や高脂血症に処方されているためと思われる7,8).
ホルモン剤では,卵胞ホルモン剤,黄体ホルモン剤が多く,処方は更年期に集中しているため,ホルモン補充療法(Hormone Replacement Therapy: HRT)で処方されていることが示された.HRTは更年期障害に効果的な治療法であると注目されていたが,2002年のWHIプログラムにより,HRTは虚血性心疾患に対する一次予防効果が認められず,末梢血管の血栓症が有意に増加し,乳がんのリスクも高まることが明らかとなり,臨床試験も中止された9,10).今後HRTに関するさらなるエビデンスが構築されることで,更年期治療における処方実態にも影響があるものと思われる.
今までの医療は,臓器別での疾患に重点を置くもので,更年期障害に代表される女性の心身の不調,女性特有のライフサイクルに配慮した医療とは程遠いものであった.個の医療の実践を目的とした女性専用外来では,これまで多くの医療機関で対処が難しかった症状が改善されるケースが多いと考えられた.中でも漢方治療は,病気だけではなく患者の体力,体質なども治療に取り込んだ個別の医療であり,女性に適した薬剤の一つであると考えられる.したがって,女性の漢方治療へのニーズはますます増えていくことであろう.しかしながら,薬学のカリキュラムには,生薬の項目は多いが,漢方製剤に関して理論的に学べるものは少ない.薬剤師の女性医療への支援として,薬学教育の中に漢方製剤の適正使用の項目を取り入れることが望まれる.
本研究によって明らかとなった女性専用外来における処方実態は,薬物療法の個別化における理解の第一歩となると考える.
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E.参考文献
1 天野恵子, ホルモンと臨床 52: 493-500 (2002).
2 太田博明, 漢方と最新治療 14: 105-112 (2005).
3 福島峰子, 日本東洋医学雑誌 55: 751-762(2004)
4 玉舎輝彦, 漢方と最新治療 12: 61-65 (2003).
5 木下優子, 矢久保修嗣,性差と医療 2 別冊: 1-202 (2005).
6 田口進, 鈴木博, 与芝真彰, 伊東文生, 工藤進英, 西元寺克禮, 杉山貢, 高木敦司, 峯徹哉, 宮原透, 三輪剛, ベイサイドGIフォーラム世話人会, Geriatric Medicine 42: 1249-1258(2004).
7 壬生倉徹志, 長澤紘一, 産婦人科の実際 51: 55-61(2002).
8 林登志雄, THE CIRCULATION FRONTIER 7: 82-89(2003).
9 Rossouw JE., Anderson GL., Prentice RL., LaCroix AZ., Kooperberg C., Stefanick ML., Jackson RD., Beresford SA., Howard DV., Johnson KC., Kotchen JM., Ockene J., JAMA 288: 321-333 (2002).
10 Hulley SB., Grady D., JAMA 291: 1769-1771 (2004).
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2.更年期障害に対する処方薬剤とエストロゲンβ受容体CAリピート多型との相関解析
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A.研究目的
更年期障害の治療においては,不足する女性ホルモンを補えばよいという考え方から,欧米諸国ではホルモン補充療法(hormone replacement therapy; HRT)が第一選択とされてきた1).しかし,本邦においてはこれまで更年期障害の認知度が必ずしも高くなく,確立された治療法の実施実績は乏しい.現在,本邦では更年期障害の薬物療法として,エストロゲン製剤を主として用いるHRTの他に漢方製剤,中枢神経系用剤などが使用されている.しかしながら,エビデンスが少なく,医師の経験に頼っているのが現状である.加えて,米国においてHRTのリスクがベネフィットを上回ることが報告され2,3),医療現場ではHRTの適正使用に向けた更なる研究とHRTの代替薬におけるエビデンスの確立が必要とされている.
昨年の報告において,更年期女性のエストロゲン受容体CAリピート多型解析から,この多型と更年期障害の症状との間に関連を見出した4).CAリピート多型と更年期障害の症状とに関連性が示されたことは,更年期障害に対する薬物療法がこの多型により異なる可能性が示唆される.そこで,更年期障害の薬物療法のエビデンスを遺伝子多型解析という新たな切り口から確立するために,更年期障害患者に処方された薬剤データをCAリピート多型との相関という観点から解析した.
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B.研究方法
遺伝子情報は個人のプライバシーに深くかかわる重要な情報であるため,その取り扱いには十分配慮し,本研究は千葉大学薬学研究院および千葉県立東金病院の倫理審査委員会の承認を得て行われた.また,処方薬調査についても同倫理審査委員会の疫学研究承認を得た.
対象患者:千葉県立東金病院女性外来を受診し,更年期障害と診断され,それに対する薬物療法が行われた患者のうち,同意が得られた63名(平均年齢52.6±4.1歳)
処方薬解析:対象患者に処方された薬剤のうち,更年期障害の諸症状に対して3ヶ月以上処方された薬剤をオーダリングシステムにより抽出した.抽出したデータは薬効分類コードにより分類した.分類した漢方製剤,中枢神経系用剤,ホルモン剤について,処方率をER β遺伝子 CA リピート多型のgenotypeごとに解析し,患者のgenotypeと処方傾向との関連を調査した.なお,抽出された薬剤の処方医は2名であった.
CAリピート遺伝子多型解析:ヒトDNAの抽出はQIAampR DNA Blood Mini Kit (QIAGEN)を用いて行った.まず,滅菌チューブにProteaseを20 μL入れ,末梢血200 μLを加えた.次にBuffer ALを200 μL添加し,15秒間ボルテックスにより混和した.56℃で10分間インキュベートし,スピンダウンした後,Ethanolを200 μL添加し,再び15秒間ボルテックスにより混和した.混合液を注意深くQIAamp spin columnに移し,8,000rpmで1分間遠心した.続いてカラムを新しいコレクションチューブに移し,Buffer AW1を500 μL添加し,8,000rpmで1分間遠心した.再びカラムを新しいコレクションチューブに移し,Buffer AW2を500 μL添加し,14,000rpmで3分間遠心した.そしてカラムを滅菌チューブに移し,Buffer AE 200 μLを添加し室温で5分間インキュベートした後,8,000rpmで1分間遠心し,DNAを得た.
抽出したDNA はPolymerase chain reaction(PCR)を行った.抽出したDNA 150 ngを滅菌チューブに移し,2.5pmol の 2種のPrimer (5’-CAA TTC CCA ATT CTA AGC CT-3’ および 5’-ATT CTT CTT TAG GCC AGG CA-3’)を各6 μL,10×reaction buffer (Transgenomic Inc.) 7.5 μL,dNTP Mixture (TaKaRa) 200 mM,Optimase Polymerase (Transgenomic Inc.) 2.5 U,滅菌精製水を加え,全量75 μLとし,Thermal Cycler Dice (TaKaRa) にて,PCR条件94℃-30秒,60℃-30秒,72℃-30秒を30サイクルで増幅した.PCR反応後は,精製せずに4%アガロースゲルにて確認泳動を行った.
PCR産物の解析は,CEQTM2000XL (Beckman Coulter)を用いたダイレクトシークエンス法(ダイターミネーター法)およびWAVE MakeTMr4.1 (Transgenomic)を用いたDNAフラグメント解析法を用いて行った.
ダイレクトシークエンスは,以下の方法とした.滅菌チューブにPCR産物1 μL,10 μM,PCRに用いたPrimerのどちらか一方を2 μL,Pre Mix(Beckman Coulter)5.5 μL,滅菌精製水を加え,全量20 μLとし,PCR条件94℃-30秒,60℃-30秒,72℃-30秒を35サイクルで増幅した後,Sequencing反応を行った.新たに用意した滅菌チューブにStop solution(Beckman Coulter) 5 μLを入れ,Sequencing反応液を全量加え,よく撹拌した.95% Ethanol 60 μLを加えよく撹拌して,直ちに14,000rpmで15分間遠心し,上清を残さないように注意深く吸い取った.次に,70% Ethanol 200 μLを加え,14,000rpmで2分間遠心し,上清を残さないように注意深く吸い取った.これを2度繰り返した後,約15分間遠心減圧乾燥した.CEQ Cycle Sequencing kit(Beckman Coulter)中のSLS 30 μLでサンプルを溶解し,サンプルを96-wellサンプルプレートへ移し,各サンプルにMineral Oilを1滴ずつ添加した.CEQTM2000XLへサンプルプレートをセットしてsequenceを行った.PCR産物のサイズ(bp)とCAリピート数の関係はデータベース上で公表されている配列(22 CAリピート= 248 bp)を基準とした.
DNAフラグメント解析は,次のような方法で行った.DNA SepR column (Transgenomic)を用い,カラム温度50℃,移動相Buffer A (TEAA:水=1:20),Buffer B (TEAA:ACN:水=1:5:14),流速0.9 mL/minとし,PCR産物のサイズを保持時間の差により求めた.解析に用いたPCR産物は精製せずに,injection 量は15 μLとした.解析の際のサイズマーカーとしては,10倍希釈した20 bp DNA Ladder(TaKaRa)を用い,サンプル解析の前後に15 μLを3回ずつinjectionし,保持時間の平均値をCAリピート数の計算に用いた.また,コントロールはsequenceにより明らかとなったサンプルを用いた.
統計解析:統計解析はχ2検定により行った.有意水準は危険率5%未満とした.
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C.研究結果
抽出した処方件数は,195件であった.これらの内訳は,漢方製剤が97件で49.7%を占めており,中枢神経系用剤は52件(26.7%),ホルモン剤は42件で21.5%であった(Fig.1).漢方製剤は23種類であり,加味逍遥散が最も多く18件(18.6%),続いて半夏厚朴湯11件(11.3%),桂枝茯苓丸10件(10.2%)であった.中枢神経系用剤は精神神経用剤が最も多く28件(53.8%)であり,そのうち16件(57.1%)が選択的セロトニン再取込み阻害剤(SSRI)であった.また,21件(40.4%)が催眠鎮静剤・抗不安剤であり,そのうち17件(81.0%)がベンゾジアゼピン系製剤であった.ホルモン剤は全てHRTの薬剤であった.
Fig.1. Prescription frequency in women with climacteric disorders.
21 CAをカットオフ値とし,CA≦21をshort allele(S),CA≦22をlong allele(L)と区分したところ,対象者のCAリピートgenotypeは,SS genotypeが29名と最も多く,次いでSL genotypeが19名,LL genotypeは15名であった.
Fig.2に漢方製剤,中枢神経系用剤およびホルモン剤の処方率をCAリピート多型のgenotypeごとに示した.漢方製剤の処方率は,SS genotypeの者が75.9%,SL genotypeでは89.5%,LL genotypeでは86.7%と全てのgenotypeにおいて高い割合であった.一方,中枢神経系用剤およびホルモン剤では処方率は漢方に比べて高くないものの,SS genotype,SL genotype,LL genotypeの順に割合が低くなる傾向がみられた.
Fig.2. Prescription frequency for Kampo medicines, CNS agents and Hormones according to CA repeat genotype of ER ? gene.
また,漢方製剤単独療法と他の薬剤との併用療法の割合の検討では,SS genotypeが2.14,SL genotypeが1.43,LL genotypeが0.86とSS genotypeはLL genotypeの2.5倍も併用している者が多いという結果が得られた(Table 1).
Table1. Number of mono and combination therapy of Kampo medicines, and the combination scale according to CA repeat genotype of ER ? gene.
漢方製剤が処方されている者のうち,更年期障害治療の使用頻度の高い代表的な3つの漢方製剤(3大漢方処方)である加味逍遥散,桂枝茯苓丸,当帰芍薬散とその他の漢方製剤とに分けて行った解析では,3大漢方処方の処方率がSS genotypeの者は72.7%,SL genotypeでは47.1%,LL genotypeでは38.5%とSS genotype,SL genotype,LL genotypeの順に割合が低くなり,SS genotypeはLL genotypeに比べて処方率が有意に高いことが示された (Fig.3).なかでも,桂枝茯苓丸の処方率はSS genotypeの者は31.8%であるのに対して,他のgenotypeの者は10.0%と有意に高かった (Fig.4).

Fig.3. Prescription frequency for three main Kampo medicines*) for climacteric disorders according to CA repeat genotype of ER ? gene.
*)Kamishoyosan, Keishibukuryogan, Tokishakuyakusan
Fig.4. Prescription frequency for Keishibukuryogan for climacteric disorders according to CA repeat genotype of ER ? gene.
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D.考察
今回の検討では,3ヶ月以上処方された薬剤を抽出しているため,更年期障害の諸症状に一定の効果を示した薬剤データであると考えられる.
薬剤処方数の解析からは,抽出薬剤の約半数が漢方製剤であることがわかり,わが国でのHRTの普及率はそれほど高くないことが示唆された.また,漢方製剤は,23種類と様々な処方薬が抽出されたが,これは漢方特有の証という考え方と更年期障害の多岐症状などが要因と考えられる.中枢神経系用剤はSSRIやベンゾジアゼピン系薬剤が多くを占めていたが,SSRIがうつ症状に加えてhot flushにも有効であるという報告もあることから,日本人においてもこのような薬剤が更年期症状に有効である可能性が示唆された5).しかしながら,これらの薬剤は,更年期の諸症状に対する適切な投与量や投与期間などは定められていない.したがって,今後,これらの薬剤に対して,適正使用に向けた更なるエビデンスを構築していくことが必要であると思われる.
CAリピート多型のgenotypeと薬効群別処方率の検討からは,SS genotypeが中枢神経系用剤およびホルモン剤の必要性が高い可能性が示唆された.また,漢方製剤と他の薬剤との併用比率はSS genotypeはLL genotypeに比べ2.5倍も高いことから,SS genotypeは他のgenotype比べ,薬物療法が複雑であることが示唆された.Westbergらは,CAリピート数が長い群より短い群の方がsex steroid hormone-binding globulinレベルが低下していたと報告している6).第1節において,SS genotypeの者はSLおよびLL genotypeよりも更年期障害の発症リスクが強い傾向が示されている.したがって,CAリピート多型のgenotypeが治療薬の選択に応用できると考えられた.
漢方製剤全体ではCAリピートgenotypeと処方率の関係は見出されなかったが,更年期障害治療の3大漢方処方のみの解析では,SS genotype, SL genotype, LL genotypeの順に処方率が下がっていった.3大漢方処方は?血の治療に用いられている代表的な漢方薬である.3大漢方処方についてはHRTと同程度の治療効果があるとの報告がある7,8).さらに,桂枝茯苓丸の処方率がSS genotypeに多かったが,桂枝茯苓丸はhot flashに対する基礎研究において有用性が示されている9).また,喜多は更年期障害における漢方製剤の有効性評価から,桂枝茯苓丸はhot flashと不眠,KSSは憂鬱と不眠が最も有効であると報告している10).したがって,CAリピート genotypeと更年期障害治療の3大漢方処方との間には何らかの関係があり,SS genotypeの者は,これらの漢方製剤,特にhot flashの症状が強い場合には治療薬の1つとして桂枝茯苓丸を選択することに意義があると示唆された.
前記したように,HRTは2002年7月,WHI (Women’s Health Initiative) Randomized Controlled Trial の中間報告で,エストロゲン+プロゲスチン併用群ではプラセボ群に比べて大腸がんは37%減少,大腿骨頸部骨折は33%減少したものの,乳がんの発生が26%増加,心筋梗塞などの心血管イベントが29%増加し,全体としてリスクがベネフィットを上回ることが明らかになっている2).単独療法においても脳卒中のリスクが高いと報告されている3).HRTの代替薬剤として漢方が使用でき,その指標として症状や医師の経験の他に遺伝子情報であるCAリピート多型を使用することにより,更年期障害の薬物療法の個別化が期待できると考える.
2003年10月の日本における女性の総人口は約6,452万人であり,45歳~59歳までの女性の人口は約1,351万人(20.9%)である11).そのうち約60%が更年期障害を発症すると仮定すると,更年期障害の推定患者数は女性の総人口の12.6%にあたる約810万人となる.つまり,8人に1人は何らかの更年期症状を抱えていることになる.社会生活の変化や医療技術の進歩などにより,医療には生活の質(QOL)の向上も求められている.本研究により,これまでQOLが著しく阻害されていた更年期障害の認知度は低いものであったが,診断,治療に遺伝子解析を組み合わせた新たな切り口を見出せたことから,女性のQOLの向上を支援できたと考える.今後,さらに症例数を増やした大規模な検討が行われ,更年期障害に対する治療薬の選択に応用されることを期待する.
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E.参考文献
1. Bachmann GA., J Reprod Med., 50: 155-165 (2005).
2. Rossouw JE., Anderson GL., Prentice RL., LaCroix AZ., Kooperberg C., Stefanick ML., Jackson RD., Beresford SA., Howard DV., Johnson KC., Kotchen JM., Ockene J., JAMA 288: 321-333 (2002).
3. Hulley SB., Grady D., JAMA 291: 1769-1771 (2004). Stearns V., Beebe KL., Iyengar M., Dube E., JAMA 289: 2827-2834 (2003).
4. Takeo C., Negishi E., Nakajima A., Ueno K., Tatsuno I., Saito Y., Amano K., Hirai A., Gender Med. 2: 96-105 (2005).
5. Stearns V., Beebe KL., Iyengar M., Dube E., JAMA 289: 2827-2834 (2003).
6. Westberg L, Baghaei F, Rosmond R, Hellstrand M, Landen M, Jansson M, Holm G, Bjorntorp P, Eriksson E., J. Clin. Endocrinol. Metab. 86: 2562-2568 (2001).
7. Mochimaru F., Toyama M., Kanakura Y., Nippon Sanka-Fujinnka Gakkai Zasshi 39: 643-645 (1984).
8. Pan B., Kato Y., Sengoku K., Takuma N., Niizeki N., Ishikawa M., Gynecol. Obstet. Invest. 57: 144-148 (2004).
9. Kita T, YAKUGAKU ZASSHI 123, Suppl.3: 44-47 (2003).
10. Noguchi M., Ikarashi Y., Yuzurihara M., Kase Y., Chen1 JT., Takeda S., Aburada M., Ishige A., J. Endocrinol. 176: 359-366 (2003).
11. 厚生労働省, 平成15年 人口動態統計(確定数)の概況HP: http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/kakutei03/index.html
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