平成17年度厚生労働科学研究費補助金 子ども家庭総合研究事業
分担研究報告書

U-(8)

性差を加味した女性健康支援のためのIT環境の構築

 

天野 恵子(千葉県衛生研究所 所長)
竹尾 愛理(千葉県立東金病院 内科)

研究要旨

@データファイリングシステムの活用により、全国に展開される女性外来患者を対象としたデータの集約と解析から女性外来患者の実体を明らかにする。
ASF36等の調査表を用い、女性外来の介入治療効果を明らかにする。
B女性外来そのものの実態調査ならびに外部評価を行い、女性外来における質の平準化に必要な因子を探る。
@、A、Bをもとに、女性外来がよりよい方向へ昇華することを目的とし、ロールモデルの提示、担当医師の教育、エビデンスに基づいた女性外来マニュアルの作成を行う

 

A. 背景

2001年5月に鹿児島大学で、そして9月、11月には千葉県立東金病院、東京顕微鏡院で立ち上げられた「Gender-sensitive Medicine (性差医療)」に基づいた女性専用外来の理念と実践は、日本全国の多くの女性の支持を得て、2004年12月末には47の都道府県全てで同様な女性専用外来が立ち上がった。其の中には30の医科大学、105の国公立病院が含まれている。内科医が中心のもの、産科・精神科・内科医の連携を中心として複数の科が協力したOne-stop Shopping型のもの、働く女性にターゲットを置いたもの、地域特性をいかしたものと、其のあり方には多様性が認められる。多数の施設が高い評価を得て、未だ其の診療予約が数ケ月先まで空きが無いという現状も続いる。しかし、実際の現場では多くの問題が生じていることも確かである。「症状は問いません」「初診に30分をかけます」という診療側の呼びかけに、多くの社会的困難を抱えた女性患者の受診があり、また、更年期、老年期の多岐にわたる症状への対処は診察する医師の高い能力が求められる。現時点では、「時間をかけて聞いてもらえた」「女性医師で安心した。話しやすかった」と言う評価が主体で、まだまだ医療の現場には「エビデンスに基づいた性差医療」の姿勢が組み込まれているとはいえない。やっと日本で芽を出した「Gender-sensitive Medicineに基づいた女性医療」を根付かせる為に、お互いに切磋琢磨し、修練を重ね、そしてまた現場からエビデンスを積み上げていくことが急務である。

B. 目的

医師による女性外来の受診者に対して、女性特有の症状・疾患・背景因子などの診療情報を整理して、多くの医師が共有し合えるインフラ環境の構築と同時に、女性外来の評価において重要な項目として、女性外来医師の治療的介入がどのような効果をもたらし、患者がどのような経過をたどって軽快していくのかを客観的に評価することができる仕組みを構築し、エビデンスに基づく女性外来の治療介入を確立する。エビデンスを積み重ね、女性外来分野における診療ガイドラインの策定と、クリニカルパスの浸透を図り、女性外来診療の質の平準化を目指すことを目的とする。

 

 


データファイリングシステムの概要と特徴

データファイリングシステムは、医師が診療情報を登録する女性外来データファイリングと、患者自身が問診を登録する女性外来対応自己問診票から構成されるWebシステムである。

(1)女性外来データファイリング
これまでの臨床経験に基づいた女性特有の症状・疾患・背景因子などの診療情報を細分化したテンプレートを生成し、大分類からその詳細な項目をポップアップリストより各項目を一度に選択することによって、入力が
簡便に行うことができる。診療情報や施設情報のコード化と施設毎に重複しないような固有の患者IDにて管理されるデータベースの構造にて、データを出力する機能を有し、統計解析を視野に入れ、二次利用できるように設計されている。出力されたデータには患者を特定する情報を排除し、個人情報の保護にも考慮した。また、症状、診断、治療などの細目に関しては、実際の診療現場においても参考にできるものになっている。

(2)女性外来対応自己問診票       問診票は、医師の治療的介入の判断を支援することが目的であり、女性外来受診患者の治療経過の評価尺度が、患者自身の自己問診により、客観的なスコアを解析することができる。評価指標としては健康管理面の指標 SF-36(HRQOL)、精神面の指標SRQ-D(うつ病)およびSTAI(不安)の3種を適用した。とくにSF-36は、8種類のカテゴリから分析することにより患者の健康状態が細かく把握することができ、十分な顧客満足度も得られる。問診票にはタッチパネル液晶端末を用いり、質問を1問ごとに見やすく表示し、回答する選択肢を触れると次画面に進める簡便な操作方法であり、高齢者でも負担を軽減させるよう考慮した。問診票に履歴管理を設け、登録するタイミングを初診時、1ヶ月後、3ヶ月後、6ヶ月後の評価尺度のスコアを追跡することで、治療経過に基づく治療介入の分析が可能となる。また、問診票は、女性外来データファイリングの患者サマリと連動しており、女性外来の対象患者を施設内で使用している患者IDと生年月日の入力条件で制限させることができる。

 

 

データファイリングシステムの構成図

各施設のLAN上にWebサーバを構築して、女性外来診察室に女性外来データファイリングの端末、問診部屋に女性外来対応自己問診票の端末を設置する。
ネットワーク環境で利用することにより、複数の医師によってデータファイリングを活用することができる。問診票においてもネットワーク回線経由で診察前に実施する自己問診のスコア結果が、診察中に参照することができ、その時の患者の健康・心理状況を把握することができる。

データファイリングシステムの機能概要

(1)女性外来データファイリング
■患者サマリ(患者基本情報)
@患者ID:院内で管理される患者番号
(データ出力の際に消去される)
A病院名・番号:所属する病院名およびシステムで管理される番号
B都道府県、市区町村
C生年月日
D初診日
E初診時年齢:生年月日から初診日間の年齢
■初診時患者情報
@アルコール歴:アルコール有無、1日のアルコール摂取量
Aタバコ歴:喫煙有無、本数、服用年数、喫煙年数
B子宮全摘手術
Cサプリメント服用歴
D閉経:閉経前、閉経年齢
E疾患分類:テンプレート選択
Fバイタル:身長、体重、血圧
G職業:テンプレート選択
■症状(テンプレート選択)
@患者の主訴:5段階評価
■検査(該当する検査をチェック)
@血液検査、婦人科検診子宮頸がん、婦人科検診内膜がん、乳腺エコー、骨密度測定DX、マンモグラフィー
■診断名(テンプレート選択)
@初診時診断と最終診断の管理
AICD10準拠(女性外来独自病名含む)
B確定チェック(フラグ管理)
■合併症(テンプレート選択)
@主訴と直接関連しない、もともとの疾患
AICD10準拠(女性外来独自病名含む)
■既往歴(テンプレート選択)
@婦人科・乳腺関連疾患と、それ以外に分類
AICD10準拠(女性外来独自病名含む)
B婦人科年齢:婦人科に受診した期間
■背景(テンプレート選択)
@受診の原因となった体調不良につながる社会的、家庭的なストレス
■有効治療(テンプレート選択)
@治療に有効であった治療法と、その改善した症状:5段階評価
A有効治療薬、薬剤量
■副作用(テンプレート選択)
@副作用の内容と副作用の原因である治療方法
A有効治療薬、薬剤量
■治療中紹介(テンプレート選択)
@治療中に紹介した他科
■転帰(テンプレート選択)
@転帰の理由
A紹介転院、転院日、治療終了日

 

■女性外来患者の登録
  患者サマリ、初診時患者情報は、常に表示され、症状/検査、診断名、合併症、既往歴、背景、治療、副作用、治療中紹介/転帰については該当するボタンにて表示が切り替わる。




■症状のテンプレート例
  例えば症状を登録する時に症状を分類した項目とその詳細内容が階層化したポップアップリストに表示され、マウス移動による選択で一括登録することができる。

(2)女性外来対応自己問診票
■問診票の画面遷移
  患者認証すると注意事項・操作説明を経て問診票登録に進み、最後に同意説明で終了となる。



■患者認証
  患者番号(施設で管理している患者ID)と患者の生年月日をタッチキーで入力すると、女性外来データファイリングに登録されている患者サマリと照合し、女性外来対照患者であるかを認証する。


■SF-36(健康管理)問診登録
質問は、1問1答で回答欄に当てはまるタッチキーにより回答し、次の質問に順次進め、36問で終了する。



■SRQ-D(うつ病)問診登録
  質問は、1問1答で回答欄に当てはまるタッチキーにより回答し、次の質問に順次進め、18問で終了する。

■STAI(現時点の不安)問診登録
  STAIは、現時点と日常における状況と問診が2分する。初めに現時点による質問を、1問1答で回答欄に当てはまるタッチキーにより回答し、次の質問に順次進め、20問で終了する。


■STAI(日常の不安)問診登録
  続いて日常による質問を、1問1答で回答欄に当てはまるタッチキーにより回答し、次の質問に順次進め、20問で終了する。

■同意説明
全ての問診が終了すると問診データをEBM解析に利用する同意説明が表示される。同意する場合には、同意フラグが立ちスコアデータの出力が可能となる。患者自身が決める。


■評価尺度(スコア)画面
問診の結果は、女性外来データファイリングにて参照できる。自己問診登録の結果および評価尺度の解析アルゴリズムにて処理されたスコアが、問診票の種類毎に表示される。SF-36のスコアについては8種類の指標に分類され、0-100得点と国民標準値換算したスコアリング表示される。各問診結果のスコアを換算表にて評価点が把握できる。


 

D. 実用化計画


今後は、データファイリングシステムの全国展開を視野に入れたシステム構築と情報の一元化を図り、女性外来分野の医療の質の向上を確立する。
■インターネット環境による利用
サーバを設置するには各施設毎の環境条件や技術的なサポートが困難であるので、共有のサーバを構築して、インターネット環境で全国何処からでも利用できるようにする。また、インターネットを利用するためには情報の漏洩とセキュリティの確保が不可欠である。そのためにはネットワーク上のデータ配信時には暗号化技術を用いたPKI認証システムが最もセキュリティに適している。
■データベースの強化
現行の女性外来データファイリングは、各施設内に設置して、少人数で利用できるデータベースであり、全国展開するためには利用者と患者登録件数を十分考慮したデータベースを搭載する必要がある。