平成17年度厚生労働科学研究費補助金 子ども家庭総合研究事業
分担研究報告書

U-(9)

千葉県における女性の健康支援の取り組み

 

研究協力者 山木 まさ (千葉県健康福祉部健康増進課女性の健康支援室 主幹兼室長)

研究要旨

女性の健康支援を、千葉県が行政主導で取り組み始めてから5年が経過しようとしている。初期の取り組みの結果を踏まえ、平成17年度は、「女性の健康支援事業の充実強化」を目標として、@相談基盤の充実 A保健・医療団体との連携強化 B事業の評価を柱として各種事業を推進している。

A. 研究目的

女性の健康支援の目標は、女性自身が自らの体の仕組みについて理解し、自らの健康管理が実践できるようになることである。そのためには、@相談者の身近なところで、相談が受けられる場所があること、A性差を踏まえた総合的な健康支援が、県内の保健・医療関係者や関係団体、あるいは住民自身を含む地域ぐるみの活動によって推進されるなど、その地域内に支援体制を充実することをねらいとして事業を展開した。その結果を評価・分析し、今後の健康支援の質的向上を図る。

B. 研究方法

各事業の結果の分析

C.研究結果

1.健康福祉センター(保健所)における女性のための健康相談

平成14年度から全県立保健所15ヶ所において「女性のため健康相談窓口」を開設し、常時、健康相談に応じるとともに、女性医師等による面接相談を実施している。  
また、平成15年度からは千葉市および船橋市が当該事業に取り組みを始めたことによって、千葉県内のすべての健康福祉センター(保健所)において相談が受けられるようになり、現在は、県内16ヶ所で定例の健康相談を実施している。
  県立健康福祉センター(保健所)における健康相談は、更に地域住民のニーズに応えるため、定例相談の実施にとどまらず、夜間、各種イベント時の開催、相談場所を移しての開催(出前相談)、市との共催による開催、コメディカルによる相談等、地域のニーズに沿った取組みへ広がりを見せ、住民が利用しやすい体制が充実してきている。

(1)平成17年度(4〜12月末日)14ヶ所の健康福祉センターにおける相談者の状況
平成17年12月末日の相談者総数は1,077人(平成14年度開設当初からの累積相談者数5,038人)、そのうち、面談による相談者は449人(41.7%)、電話による相談者は628人(58.3%)であり、1ヶ月平均の相談者数は約120人である。
なお、定例の相談回数は健康福祉センター毎に月1〜3回開催している。

(2)相談者の主訴
相談者の主訴は図1のとおりである。その内容をみると、月経不順、子宮筋腫、不妊等産婦人科領域の訴え(35.7%)が最も多く、次いで不安、不眠、うつ状態等精神的訴え(20.9%)、のぼせ、ほてり、頭痛等更年期症状(12.3%)の順になっている。   
また、その他の訴えの中には、生活習慣病を始めとする各種疾患、排泄等身体症状、DVや家族関係、生活上の問題等多岐にわたっている。

相談内容により、各健康福祉センターで別途定例開催をしている精神保健福祉相談等との連携や医療ニーズの高い相談内容については女性専用外来等へ紹介するなど地域の関係機関の機能を十分に活用しながら、相談者の問題解決を図るとともに、生活の質(QOL)の向上を目指している。

面接相談を担当する者は、内科医、産婦人科医、心療内科医、精神科医、助産師、臨床心理士、保健師等である。

 

 

2.女性専用外来の拡充

平成13年9月に、都道府県立病院としては全国ではじめての女性専用外来を県立東金病院に開設して以来、県内各地の女性たちからの強い要望に応え、女性専用外来の設置を促進するための補助制度を創設し、現在では、県立の医療機関3ヶ所、公的・民間の医療機関7ヶ所の合せて10ヶ所に拡大し、概ね二次保健医療圏毎で女性専用外来が開設されている。

平成17年12月末日現在、県内10ヶ所の女性専用外来の受診者は、延べ5,874人(平成13年9月以降の累積受診者数約22,532人)であり、450人余りの予約待ちの状況である。

また、これらの受診者の主訴を見ると図2のとおりであり、更年期障害(30.0%)が最も多く、精神科疾患(24.7%)、産婦人科疾患(13.9%)となっている。
主訴について健康福祉センターと女性専用外来を比較してみると、更年期症状(障害)が最も大きな差であり、女性専用外来の方が約18ポイントと高くなっている。
このことは、健康福祉センターからの紹介も含め、医療ニーズの高い受診者が女性専用外来を受診していると思われ、センターと外来双方の役割分担が明確になってきている。

なお、最近では独自に女性専用外来を開設している医療機関が増加してきているが、その医療内容や診療体制は医療機関毎に異なっている。女性専用外来の更なる質的向上を図るため、今年度、新たに「女性専用外来評価事業」として、女性専用外来受診患者の満足度や女性専用外来に従事する医師・看護師等にアンケート調査を実施しているところである。

3.女性の健康応援団ジョイナス事業
−県内各健康福祉センターを核とした地域ネットワークの構築−

女性のライフステージを通じて、自分で健康管理ができるようにするためには、行政や地域の様々な保健医療サービスを担っている機関・関係者が、その地域で女性の健康を支援するネットワークを構築することが必要である。

このため、平成14年度には、2カ所の保健所で女性の健康支援体制促進事業モデル事業を実施、平成15年度からは全県立保健所において取り組みを行い、地区医師会、歯科医師会、薬剤師会、助産師会、看護協会、産業保健関係者、教育関係者、市町村、住民などで構成される協議会等の設置が図られた。

平成17年度は、更にその協議会を中心に、関係機関における具体的な取組みや連携強化が進んでいる。特に、思春期保健においては学校保健との協働が進み、「思春期保健関係者会議」等において地域の課題に対する対策が検討され、学校長・養護教諭等学校関係者と健康福祉センターや市町村の保健師、地域の助産師等とともに小・中・高校生や保護者への性に関する健康教育や「思春期相談110番マップ」の作成等生(性)に対する健康教育への取組みが進み、地域におけるネットワークが充実されてきている。


4.女性のための健康教室

女性の健康に関する自己管理意識の向上を図るため、一般県民を対象に健康教室を平成14年度から開催している。平成16年度は67回開催し、約5,000余人の参加があった。

平成17年度も前述した生(性)を中心にした思春期保健、更年期・骨粗しょう症・心の健康(ストレス)等地域の女性の健康課題について、学生や主婦層を対象に、健康福祉センターの保健師等が講師となり、関係機関の協力を得て健康教室、シンポジウム等を開催し、多くの参加者を得ており、女性の健康への関心が高まっている。

5.保健・医療従事者等の研修

平成14年度から保健医療従事者の性差医療に対する理解と、女性専用外来や健康相談担当者の資質の向上を図るために研修会を開催してきた。
  平成17年度もそれぞれの関係者が業務の実施にあたり役立つ知識や技術等を習得するため、夜間や県内各地での開催等関係者が参加しやすい工夫をしながら開催している。
特に今年度は、性差の視点から働き盛りの中高年の自殺が増加している状況を踏まえて、「お父さんが元気でいてほしい」をテーマに男性の健康に関する「性差を考慮した保健医療講演会」を実施したところである。保健医療関係者だけでなく、県民及び職域における健康管理担当者にも周知をはかり、約250名の参加をえ、男性の心と体の機能や加齢に伴う変化、男性更年期、うつ病、自殺等についての講演会を実施し、多くの方々に「性差」の視点、女性と男性の違いについて理解を得た。
また、研修会は必要な知識の習得だけでなく、参加者がお互いの機関の業務を理解し連携強化を深め、相互協力をしながら事業を効果的に実施するためにに役立っている。
なお、県主催の研修会だけでなく、健康福祉センターを中心にした事例検討会やNPO等主催による研修会も開催され、多くの関係者が参加している。

6.疫学調査

平成14年度に設置した「女性の健康に関する疫学調査検討会」の意見を踏まえ、県民の健康状態や生活実態を明らかにするとともに、本県の健康課題について具体的な政策提言につなげることをねらいとした、5つの調査研究を平成15年度から開始し、その主な調査結果については、平成16年度に報告済みである。

なお、「検診データ収集システムの確立」と「おたっしゃ調査」及び「県民健康基礎調査」の3本については継続して調査を実施している。
「女性の健康に関する疫学調査検討会」は、県単独事業として実施した5本の疫学調査については、概ね調査を終え、性差、年齢、地域差等多くの健康課題が明らかになり、当初の目的を概ね達成したことや今後、新たな健康課題に対応するために、3年間の周期設定どおり検討会を今年度に閉会とした。現在、その報告書を作成しているところであり、その調査結果を施策に反映することが大きな課題である。

例えば、@「検診データ収集システムの確立(中間報告)」では、医療制度改革等の動向を先取りし、内臓脂肪症候群の概念を導入し、検診時の腹囲の測定を取り入れ、内臓脂肪症候群予備軍の把握を行う。
A千葉県における子宮頸がんの若年化とHPV感染の実態調査結果より、子宮頸がん患者全員がHPVの感染陽性であったことから、子宮頸がん予防対策としてHPVの感染予防を図ること。
B女性のライフステージ調査からは、26年間で初潮年齢が0.7(14.3→13.6歳)若年化、閉経年齢が2.0歳(48.3→50.3歳)延長し、女性としての機能を果たす期間が約3年延長したこととなり、その間を含め自分らしく豊かに健康な生活を送るための支援が必要である。など今後、その具体的な施策を事業化し、県民の総合的な健康づくりを推進していくことが求められている。

なお、千葉県や多くの研究者が女性の健康に関する研究や調査を実施しているが、都道府県間の比較等が可能となるよう、国レベルでの疫学調査の実施を期待している。

7.県内外への波及 

本県の女性専用外来の取組みは、県民や保健医療関係者の女性の健康に対する関心を高めるとともに、全国の医療機関へ拡大し、さらに、厚生労働省の「健康フロンティア戦略」等にも生涯を通じた女性の健康支援が明記されるまでに至っている。
また、全国知事会において、性差に基づく健康課題を明らかにするとともに、女性が生涯を通じた良質な保健医療サービスを得るために、必要な女性の健康支援に関する環境整備や女性専用外来など女性医療の研究及び体制整備の充実を検討する基礎データを収集する目的で、各都道府県を対象に「女性の健康支援に係る調査」を平成16年5月に実施した主な結果は次のとおりであった。

@性差を踏まえたきめ細かな保健医療施策を推進するための女性の健康支援に係る取組み状況は、県としての女性専用外来開設が17都道府県、医療従事者研修会の開催が21都道府県、健康相談の実施が33都道府県、その他健康課題に応じた取組みが46都道府県であった。

A女性の生涯を通じた健康課題に応じた総事業数は388事業であり、このうち県単独事業は151事業となっている。

B平成15年度の健康相談事業の延相談件数は24,729人であり、その主訴別の状況は思春期に関するものが最も多く27.7%、メンタルケアが20.8%、不妊に関するもの11.0%、更年期症状が3.9%となっている。

C女性専用外来を設置している都道府県における女性専用外来の概念・方針の主なものは
ア 女性の生涯を通じた健康づくり
イ 特性に応じた総合的な医療を提供
ウ 女性に対し医療サービスの選択幅を広げる。
エ 女性医師が女性患者の相談を受けて適切な診療を行う。
オ 性差を重視して、女性特有の疾患を精査加療する。
等であった。
共通点は
ア 女性医師による
イ 性差を考慮した適切な医療の提供
ウ 総合的な医療の提供 
であった。詳細については、表1のとおりである。

D女性専用外来促進に係る課題や意見等については、
ア 女性医師の確保が困難なこと。
イ 診療報酬では採算が取れないと考えること。
ウ ニーズの把握や優先順位の検証が必要である。
等であった。

この調査結果から、今後@女性専用外来は都道府県立病院のみならず、民間の医療機関も含め、全国に拡大してきているが、受診者の主訴と担当する医師の専門性に乖離が認められることから、メンタルヘルスへの対応等医療の質的な検討が必要である。A女性の健康課題に応じた取組み状況をみると、青壮年期の月経不順・子宮内膜症、中・高齢期の高脂血症等に対する取組みが少なく、課題に応じた取組みが必要である。

なお、この調査以降、女性専用外来の開設は、更に進み、現在では全国の都道府県で開設されるに至っている。

 

8.今後の課題

本県が女性の健康支援に取組み始め5年目であり、更に、生涯を通じた健康支援を発展させるために、今後の課題を整理する。

(1)性差を考慮した保健医療の充実
女性専用外来、健康相談及び疫学調査等の事業を通して、女性と男性は異なる特有の身体的特徴を有しており、同じ年代でも様々な健康上の問題に直面していることが明確になり、「女性」特有の保健医療ではなく、「性差」を考慮した保健医療サービスを女性と男性それぞれの健康状態に応じて提供が必要となっている。 
千葉県としては、「女性の健康支援」として性差への取組みを開始したが、自殺等男性の健康課題も緊急性を要するものであり、働き盛りの中高年男性の自殺を予防するために男性の更年期やうつ病等心の健康づくりへの取組みを今後、積極的な行うこととしている。
また、患者の心と体を総合的に捉えると同時に、疾患や生活環境等に大きく性差が影響を与えている視点を踏まえた予防や診断治療の確立を目指し、患者一人ひとりに適切な保健医療が提供できるよう、更に、体制の充実強化を図っていくことが必要である。

(2)地域のネットワークづくり
健康福祉センターを核とした地域ネットワークが構築され、より身近な地域で気軽に相談が受けられる体制が充実されつつあり、健康相談や女性専用外来と地域の専門医との連携が図られ、相談事業から医療へ、医療から地域での生活支援へ等継続的な支援も可能となっている。
今後、女性のみならず子どもから高齢者まで県民の誰もが住み慣れた地域で生き生きと暮らせる社会を目指して、生活の質(QOL)の向上を図るためのサポート体制を充実していくことが必要である。

(3)事業の評価
千葉県の総合的な健康づくりを展開する指針として平成14年2月に策定した「健康ちば21」に、女性の健康課題に対する支援を行うこととしており、その中間年にあたる今年度、中間評価・見直し作業を行っているところであり、健康目標値の達成状況等客観的な評価を行っているところである。また、「女性専用外来評価事業」等と併せて、評価結果を基に、保健医療サービスの質的向上を図っておくことが求められている。


D. 結語

人生50年時代から80年時代へ、平均寿命が30年間も伸び、この間をいかに健康で生き生きと過ごすかが問われている。

生涯を通して健康で豊かな長寿社会を実現するために、県民が自己の健康を管理できるようになることであり、そのためには患者の心と体を、社会的・経済的背景を含めて全人的にみ、県民一人ひとりに合った保健医療サービスを提供することが求められている。

千葉県で始まり全国に広がりつつある性差医療が、さらに発展することを願うとともに、本県における健康支援がより一層充実するよう、今後も努めていきた い。