併用ホルモン療法を受けている高齢女性では、それを受けていない女性と比較して、アルツハイマー病(AD)を含む痴呆の比率が2倍高いことが、ウイメンズ・ヘルス・イニシアチブ(WHI)の記憶力に関する下位研究で明らかになった。
ウイメンズ・ヘルス・イニシアチブ・メモリー・スタディ(WHIMS)の一環として実施されたこの研究は、アメリカ医学会ジャーナル(JAMA)の2003年5月28日号でレポートされている。この研究は、ホルモン療法用のエストロゲンとプロゲスチンの合剤、PremproTMを服用した65歳以上の女性を対象に実施され、その結果痴呆発症のリスク増加が確認された。また併用ホルモン療法が、痴呆より軽症の認識力低下の一種である軽度認識障害(MCI)の発症を予防することはなかったという結果も得られている。
「いくつかの分野で悪影響の可能性があること、そして他の分野でも実証された効果が欠如していることから私達は、現時点では、メノポーズ後の高齢女性に対して、認知機能の維持または改善を目的に併用ホルモン療法を処方するべきではないという結論に達しました」と、アメリカ保健社会福祉省、アメリカ国立保健研究所(NIH)傘下の国立老化研究所(NIA)副所長Judith A. Salerno医師は話している。
この研究結果は、WHIMSの主任調査官であるWake Forest University School of Medicine(ノースカロライナ州ウィンストン−セーラム市)のSally A. Shumaker博士と、研究に参加した39ヶ所の施設に属する研究員によってレポートされた。
記憶力に関する下位研究のWHIMSの研究資金は、PremproTMを製造するWyeth Pharmaceuticals社から提供された。同社は、WHI臨床試験での使用を目的にPremproTM を提供している。またより大規模なWHI臨床試験は、NIHのアメリカ国立心肺血液研究所(NHLBI)の支援を受けている。老化に関連して起こる記憶力の変化及び痴呆に関してはNIHの主要研究所であるNIAがこの調査結果の確認を担当した。
ここで重要なのは、WHI及びWHIMSなどの下位研究で、エストロゲン+プロゲスチン(E+P)の併用療法グループに属していた女性も、現在では臨床試験の一環として併用療法を受けることを中止しているという点だ。2002年7月、エストロゲン+プロゲスチンの併用療法の臨床試験に参加していた女性のあいだで、このホルモン療法による乳がん、心臓疾患、脳卒中、血栓のリスク増加が、大腿部頚部骨折及び結腸直腸癌への効果を上回ると判断された時点で、WHIの併用療法の臨床試験は全て中止された。
2002年7月に発表された乳がん、心臓疾患、脳卒中のリスク増加に関するレポートでもそうであったように、研究グループは今回の発表についても、データを正しい相関関係に基づいて評価しなければならないという点を強調している。大規模な女性人口を対象に計算した場合、痴呆のリスク増加は顕著であるが、高齢女性を個人ごとに見た場合のリスクは実際のところ比較的低い(相対危険率と絶対危険率に関する詳細は、NIAファクトシート「Understanding risk: What Do All Those Headlines Mean?(リスクを理解する:これらの見出しは何を意味するのか?)」(www.nia.nih.gov)を参照)。
今回の研究結果は、65歳以上の女性に対するエストロゲン+プロゲスチンの併用療法(試験に使用されたPremproTMに特定して)の影響を調査したものであり、この併用療法が、より若い女性の認知能力に対してどのようなリスク及び効果を持つのかについては明らかではない。より若い女性に対する更年期症状の治療を目的とする短期のホルモン療法は、アメリカ食品医薬品局によって認可されており、今回の研究結果が、このような治療法に関する決定に直接影響することはない。NIHの研究員及び関係者は、年齢に関わらず女性は自分自身へのリスクと効果について医師に相談することを推奨している。
65歳以上の女性を対象に実施された5年間にわたる記憶力調査の結果は、以下を示唆している:
* エストロゲン+プロゲスチンを服用した女性は、偽薬を服用した女性と比較して、痴呆のリスクが2倍高かった。痴呆のリスクをもつ女性は、偽薬のグループでは年間1万人あたり22人であったのに対し、併用療法のグループでは1万人あたり45人であり、併用療法を受けている女性では痴呆のリスクが1万人あたり年間23人増加したことを意味する。この研究の参加者4,500人のうち、61人が痴呆と診断された。痴呆と診断された患者のうち66%が併用療法を受けていた女性、34%が偽薬を服用していた女性であった。
* この研究の参加者に見られた痴呆の大部分が「probable Alzheimer’s disease」に分類され、血管性痴呆がそれに続いた。併用療法を受けていた女性に発症した痴呆40件のうち、アルツハイマー病は20件(患者の50%)、偽薬を服用していた女性に発症した痴呆21件のうち、アルツハイマー病と判断されたのは12件(患者の57%)であった。
* 軽度認識障害(MCI)だけが診断されるリスクを併用療法グループと偽薬グループで比較したところ、大きな格差は見られなかった。
65歳以上の女性を対象とするWHIMS下位研究には、約4,500人が参加した。参加者は、調査開始時に痴呆が無いことを確認するスクリーニング・テストを受けるなど、参加基準を満たすと判断された後に、エストロゲン+プロゲスチンの併用療法(結合型エストロゲン(CEE)0.625mgと酢酸メドロキシプロゲステロン(MPA)2.5 mgの錠剤、商品名PremproTMを1日1錠)のグループと、同じ外観を持つ偽薬のグループに無作為に分けられた。認知能力の状態は毎年評価され、認知能力の低下を示した女性に対しては、その状態をより正確に特徴付けるための詳細な検査が行われた。
また研究グループは、社会経済的地位、学業成績、エストロゲンまたはプロゲスチンの過去の使用経歴、コレステロール低下薬、アスピリン、その他の非ステロイド系抗炎症薬の過去の使用経歴など、認知能力に影響を与える可能性をもつ他の要因についても調査した。このような要因については、併用療法グループと偽薬グループのあいだに顕著な差は見られず、確認された認知能力低下の比率における格差に対して、これらの要因が及ぼした影響は考慮されていないと、研究グループは話している。
JAMAの同じ号に掲載された2つ目のレポートは、高齢女性に対する併用療法が悪影響を及ぼすと考えられる全般的な認知能力の状態を示している。WHIMSの調査官、Wake Forest University School of MedicineのStephen Rapp博士と、他の研究施設に属する研究員は、広く使用されている「Modified Mini-Mental State Exam (3MS)」と呼ばれるテストで参加者の認知能力を検査した。実際にはこの認知能力テストでは、参加者全員の平均成績が調査期間をわたって改善された。これについて研究グループは、毎年同じテストを受ける結果起こる「練習効果」であると推測している。しかし併用療法グループに属する女性では3MSの成績の増加率が、偽薬グループに属する女性のそれと比較して、多少低いことが確認された。
約3,000人の女性が参加しているWHIMSの別の臨床試験は、子宮摘出術を受けた女性を対象に、エストロゲンの単独ホルモン療法が認知能力へ与える影響を調査しており、データ・セーフティ・アンド・モニタリング・ボード(DSMB−Data Safety Monitoring Board)は、この試験のリスクと効果を今後も継続的に監視していく。またNIHは今回の痴呆に関する見解が、E+Pに関連する他の臨床試験に及ぼす影響について考査していく。
|