メノポーズ後の女性が、エストロゲンとプロゲスチンの結合型ホルモンの投与を毎日受けると乳がんのリスクが高まることは、これまでの研究で確認されている。しかしこれに加えて、ホルモン投与の停止後およそ6ヶ月で、このリスクが通常レベルへ戻り始めることが明らかになった。
これは、National Institute of Child Health and Human Development (NICHD―アメリカ国立小児保健発育研究所)の Women’s Contraceptive and Reproductive Experiences Study(女性の避妊および生殖の経歴に関する調査)の一環として行われた分析の結果であり、2002年12月号のObstetrics & Gynecology(産科学&婦人科学)誌に掲載されている。研究資金の大部分をNICHDが提供しており、ジョージア州アトランタのCenters for Disease Control and Prevention(アメリカ疾病対策予防センター)が、研究スタッフとコンピュータ・サポートを、そしてNational Cancer Institute (アメリカ国立がん研究所)が追加の資金を提供した。
「女性がエストロゲンとプロゲスチンの結合型ホルモンの服用を停止した後6ヶ月で、乳がんのリスクが通常レベルへ戻り始めることが分かり安心しました。女性は担当医と相談しながら、可能な限り十分な情報に基づいた決断をしなけれなりませんが、この研究でまた1つ重要な情報が加わりました」と、NICHDのディレクター、Duane Alexander医師は述べる。
NIH(アメリカ国立衛生研究所)が行った「Women’s Health Initiative (WHI―ウイメンズ・ヘルス・イニシアチブ)」は、連続結合型ホルモン療法のリスクと効果を評価する最初の大規模臨床試験であった。2002年7月、「結合型ホルモンを投与するホルモン補充療法(HRT)が引き起こす、乳がんと心臓疾患のリスク増加は、その潜在的効果を上回る」という理由から、WHIのうちエストロゲンとプロゲスチンを併用投与する臨床試験が中止された。エストロゲンは基本的に、ほてり、睡眠中の発汗、不眠、膣の乾きといった更年期の症状を緩和するが、エストロゲンだけを単独投与すると子宮内膜がんのリスクが増加する。しかしプロゲスチンを併用することで、子宮内膜がんの危険性をほぼ完全に無くすことができる。
「NICHDの研究を計画するにあたり私達は、様々なホルモン治療に関連するリスクを可能な限り学ぶよう努力しました。ホルモンの併用投与によるHRTが、エストロゲンの単独投与と同じリスクを持つか否かという点について、当時はほとんど情報がありませんでした」と、NICHDの避妊および生殖医療部門のチーフ、Robert Spirtas博士は述べる。
WHIでは、結合型ホルモンの連続投与を受けている被験者の健康状態を、試験期間を通してモニターし、彼らの乳がん発症率が通常レベルより高いことが確認された時点ですぐに試験は中止された。試験中止から短期間しか経過していないため、ホルモンの投与中止後に、被験者の乳がんリスクが増加したか否かについては未だ確認されていない。
WHIとは逆にNICHDの研究は、乳がんと診断された女性を対象に、ホルモンの使用や乳がんの潜在的危険因子について質問することから始めた。そして彼らの調査データを、乳がんを発症してない類似する女性グループのそれと比較した。
「私達のデータでは、現行の長期的使用者のあいだで、結合型ホルモンを連続投与するHRTと乳がんリスクとの間に、明確な関連性が示唆されています。プロゲスチンの連続投与が、その要因の1つである可能性もあります」と、研究レポートの著者は結論付けている。
この調査には、アトランタ、デトロイト、ロサンジェルス、フィラデルフィア、シアトルの治療センターで、1994年7月1日から1998年4月30日の間に乳がんと診断された女性が参加しており、白人と黒人の女性合計3,823人が分析された。全体では、乳がんを発症した女性1,870人の病歴と、乳がんを発症していない女性1,953人の病歴が比較されている。
この研究からは、結合型ホルモンの連続投与によるHRTを5年以上受けた女性は、このタイプのHRTを受けていない同年代の女性と比較して、乳がんを発症する比率が1.54倍高いことが判明した。またこのタイプのHRTの使用期間が長いほど、乳がんリスクの増加は顕著であった。しかしこのホルモン併用投与を停止した後6ヶ月で、彼らの乳がんリスクは通常レベルへ戻った。5年以上HRTを続けた女性からも、6ヶ月しか続けていない女性からも同様の結果が得られている。
「NICHDの調査には、過去にHRTを使用した経験をもつ女性も含まれていました。私達のデータは、結合型ホルモンを連続投与するHRTに関連するリスク増加は、投与停止から約6ヶ月で通常レベルへ戻り始めることを示唆しています」と、Spirtas博士は話す。
さらにこの分析は、エストロゲンとプロゲスチンをひと月のうち別の日に個別に投与するHRTでは、この女性グループの乳がんリスクが増加しない可能性があることも確認している。プロゲスチンをひと月のうち5〜14日だけ投与するエストロゲンとプロゲスチンの逐次投与法には、複数の投与計画がある。しかし初期の調査は、逐次投与法が子宮内膜がんのリスクを高める可能性を示唆している。逐次投与法による子宮内膜がんのリスク増加は、エストロゲンの単独投与によるリスク増加ほど顕著ではないと考えられている。
子宮摘出術を受けた女性は、子宮内膜がんに罹る可能性が無いため、エストロゲンの単独投与が可能だ。NICHDの調査からは、エストロゲンの単独投与を受けた女性における乳がんリスクの増加は確認されていない。しかしアメリカ国立がん研究所(NCI)の最近の調査は、エストロゲンの単独投与を受けた女性では、卵巣がんのリスクが高まる可能性を示唆している(NCIのプレスリリースは、http://newscenter.cancer.gov/pressreleases/Laceyovarian.htmlを参照)。
WHIでは、この試験参加以前に子宮摘出術を受けた女性を対象に、エストロゲン単独投与の臨床試験も行われている。現時点では、エストロゲンのリスクと効果の明白なバランスが分かっておらず、この臨床試験は現在も継続されている。
|